第2話 ハイエルフは冒険者に成る
1ヶ月後、シリアは村を出ると言った。
「国へ帰るの?」
シリアは首を振ると
「王国へ行くわ」
彼女は懐から1枚のカードを出した。
「これは?」
「冒険者カードよ」
初めて見るカードに心が踊った。
憧れの冒険者、シリアは獣人の冒険者だったのか。
「怖くは無いの?」
「怖いわよ、貴方に助けられた時も冒険者崩れの悪い奴らに追われてたしね」
彼女は晴れ晴れとした空を見上げると。
「でもね、獣王様からの命があるのよ」
それ以上は聞いても、教えてくれる事は無かった。
それから20年、15歳の誕生日に俺は聖なる力を授かった。
癒やしの力はもちろん、他にも新たな力を身に付けたのである。
「母さん、俺は行くよ」
母は何も言わ無い。
「シリアを探したいんだ」
「ダスト、着いて来なさい」
母は隣接している物置小屋に入って行くと、奥から古い旅道具を持ち出して来た。
「貴方の父が使っていた物です、持って行きなさい」
短剣2本と頭まで隠せるマント、更に人族が作り出した魔力のこもった鞄である。
「ありがとう」
「くれぐれも気を付けるのですよ」
「はい」
俺は早速村人達に礼を伝えると、村を後にしたのだった。
「ミスミナさん、良かったのかい?」
「きっとあの子は、大切な使命を受けて生まれて来たのでしょう。
私には止める事が出来無い力を身に付けてしまったわ」
そんな心配など知らずに、結界へと向かう俺であったのだ。
結界内で一晩野宿すると、翌朝外へ出た。
その光景は思っていた物と違い、エルフの森の様な輝きが無い。
少し拍子抜けしたものの、気を取り直し鞄から地図を取り出すと、現在地の確認を行う。
今は帝国の領内か、一番早いのは公国を抜け王国に入るのが良さそうに思える。
「さて、シリアは何処にいるかな」
俺は期待に胸を膨らませ、公国へ向かい歩き始めたのであった。
旅路は獣を狩っては調理し、木の実や果物はそのまま食べると言った、その場凌ぎの暮らしな感じではあるが、順調に進んでいる。
2日程で公国の国境に近い街に辿り着いた。
初めて入った街に気分が高揚して来るのを感じる。
世の中には、こんなにも多くの人達が暮らす場所があるのか。
これだと、シリア一人探し出すのは難しいかも知れない。
俺は香ばしい匂いに釣られ、1軒の屋台前に引き寄せられた。
串に刺さった肉の焼ける匂いだ、エルフが作る物より美味そうな香りだ。
「1本どうだい?」
「良いの?」
「もちろんさ、銅貨3枚だよ」
「銅貨?」
「兄ちゃんは何処の田舎者なんだい、銅貨と言うのは金だよ金」
店主は呆れた顔をしながらも、親切に教えてくれた。
金と言う物の存在、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、金貨10枚で白金貨1枚だそうだ。
それから相場を教えてくれた事も有り難かったと思う。
「何処で貰えるのかな?」
「働くんだな、店でも何でも良いから仕事の対価として貰うんだ。
腕に自信があるなら冒険者ってのも良いかもな」
「俺でも冒険者に成れるの?」
「ああ、簡単に成れるさ」
冒険者ギルドで成れる事と場所まで教えてくれた、全く親切な人である。
扉を開くと賑やかな空気が伝わって来る。
ここが冒険者ギルドか
教わった通り、奥のカウンターに向かうと受け付の女性に声を掛けた。
「冒険者に成りに来たんです」
女性は1枚の紙を置くと、名前に種族を記入する様言われた。
「確認します、名前はダストさん、種族は人族ですね」
「はい」
紙は祝杯で燃やされ、灰に自分の血を1滴垂らした。
かき混ぜ完成した物を、1枚のカードに振り掛けると完成したと言う。
「最終確認します、名前ダストさん、種族は人族、ランクはSですね・・・・えS?」
何か問題でもあるのだろうか、冒険者に成れないとかだと困る。
女性はカードをじっと見つめると、我に返った様に着いて来る様促した。
俺は沢山の視線を浴びながら、静まり返ったギルド内を着いて歩き始める。
案内されたのは、2階の一室でギルドのマスターが使っている部屋であった。
「マスター、お伝えしたい事があります」
俺はソファーに座されると、2人は密かに密談を始めたのだ。
女性が退室すると、マスターが向かいに座った。
「貴方は、どんな能力を持っているのでしょうか?」
「一人で生きて行ける程度の力なら」
「うーん、あり得ないと思うが祝杯が認めたなら信じるべきか」
マスターは冒険者のランクに付いて話始めた。
何でも、最高級はA・B・C・D・Eと能力に合わせて下がって行くのだと教わる。
「幾多の冒険者の中でもSランクはいないので、普通ならあり得ない事なんですよ」
「何かの手違いでは無いのですか、俺は冒険者に成れればランクは気にしませんが」
「間違いは無いです、祝杯は教会で魔力を込められた物で、別名神の祝杯と言われてる物なのです」
「つまり?」
「神が認めたに等しいと言う事です」
そこから冒険者の役割を聞き、部屋を出る事とした。
扉に手を掛けた所で呼び止められた。
「出来たら、簡単な依頼を受ける事を勧ます」
俺は丁寧に頭を下げ部屋を後にしたのだった。
下へ降りると掲示板に向かう、皆親切に俺の前を開けてくれるのだ。
帝国と聞いていたが、この街は親切な人ばかりだ。
俺は推奨ランクE、猪の納品と書かれた紙をカウンターに出した。
「これで宜しいのですか?」
女性が不思議そうに聞いて来る。
「はい、銅貨10枚が貰えるんですよね」
「そうですが」
女性は何か不思議そうにしながら、依頼書に印を押すと手渡してくれたのだ。
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