独りだけのハイエルフ

月のうさぎ

第1話 ハイエルフは猫人を助ける

元々エルフの国と獣人の国は非常に安全であったのである。

同盟関係の2国は、エルフの王がとても強力な、幻惑魔法の結界を張っていたのである。

その結界は両国共、ある程度の力を持つ者が一緒でない限り往復は出来ない仕様であるのだった。

それでも、戻れ無いのを覚悟で新しい世界を夢見て、結界の外へ出て行く者は多かった、原因は戻った者達から伝えられる冒険譚にあるのだ。



エルフの首都からから離れた、名も無き小さな村で育つ少年ダストも、その一人であった。

村人達は母であるミスミナが正統王女で知りながらも、国に反し子供のダストも含め大切に匿っていたのだ。

ミスミナは感謝とし、村人達の病気や怪我は勿論、近隣の森や畑等も癒やしの力で豊かにして感謝を表していた。


「母さん、俺もそろそろ世界を見て回りたいのだけど」


「またその話ですか、駄目です貴方はまだ子供なのですからね」


「ちぇ、つまらないな」


ミスミナはダストが特殊であり、存在が知れ渡れば悪用しようとする者達が出て来る事を、危険視していたのである。

ダストは普通魔法以外に、広まってる事の無い未知の魔法を使えるのだ。

それが相手達に対する状態以上と自分達に対する強化魔法であった。


「ダスト、森に行くのか?」


村人が声を掛けて来た。


「暇だから、獲物を狩って来るよ」


「くれぐれも結界からは出るなよ」


「はーい」


ダストは大抵の日は森に入り、動物や植物等を採って村で分配していた。


その日は昔村に訪れた、エルフの冒険者話を思い出し、何時に成ったら世界を見て回れるのか考えていたのだ。

そんな事を考えながら獲物を探し歩いていると、獣達の妙な気配を感じ取った。


「探索感知」


このスキルは父であるガルトが持つ、盗賊の力を受け継いだものである。


結果は少し先に、人を囲む様に獣が集まっている危険な状態であった。


「移動速度向上」


ダストは自分に強化魔法を掛けると、獣が集まってる方向へ走り出す

弱体魔法と強化魔法は便利ではあるが、効果中は常に魔力が使われて行くので、

魔力の少ない時などは使用に注意しなければ成らない。


「全くしつこいわね、私は貴方達の餌になんて成らないから」


猫人の少女は腕や腹などに怪我をしながらも、襲ってくる獣達を剣で牽制していた


「はぁ、はぁ、まだ出来るんだからね」


そう言いながらも少女は地に膝をつく。


獣達はここぞと計りに複数で飛び掛かる体制を整える。


「範囲麻痺」


ダストは獣達に麻痺の状態魔法を掛けると、少女を抱き上げた。


腕に腹部に足か、命を落としかねないな。


「貴方は?」


そう言うと、少女は気を失ってしまった。


俺は獣達は放置して、少女を村へと急ぎ連れ帰った。



家に戻ると、診察台に少女を寝かせる。


「母さん」


「大丈夫、助かるわよ」


その言葉に安心したのは言うまでも無い。


「獣人の国から来たのかな、それとも」


「ダスト、煩くしては駄目よ」


「はーい」


俺は再び森へ入ると、少女を助けた場所へ向ったが案の定、全ての麻痺効果が切れた為、いなく成っていた。

確か肉は余ってたから、果物とキノコでも採って帰ろう。


少女が目覚めた時に喜ぶ事を想像して、採取を始めるダストであった



笑顔を期待して戻ったが少女は眠ったままだった。


「母さん、大丈夫なの?」


俺は心配で再度聞いてしまう。


「心配しないで平気よ」


少女の枕元に座ると、初めて見る獣人族に興味津々だったのだ。


何をして暮らしているのか、どんな文化があるのか、早く目覚めてくれないかな。

そうだ、彼女が国へ帰るなら結界内の移動だし、付いて行くのを母も許すかも知れない。

寝顔を見ながら様々な思いが湧き上がって来た。


「ダスト、夕食が出来たわよ」


彼女の元を離れると、渋々診察室を出たのである。


結局、その日に少女が目覚める事は無かった。



翌朝目覚めると、母の姿は無かった。

診察室の方を覗くと、少女にスープを与えてる所の様で、俺は嬉しく成った。


「目覚めたんだね」


母の横に椅子を並べると腰掛けた。


まだ何かを警戒してる雰囲気だ、彼女の耳が終始ピクピクと動いている。


「俺はダスト、この村は結界で守られてるし、獣達も入れない様に成ってるから安心して」


「私はシリア猫人よ、貴方は人族なのね」


彼女は俺の顔を見つめながら言った、これが警戒の原因なのだろうか?


「助けてくれてありがとう」


お礼を言われた時には警戒心も解けていた様であった。


「シリアか、良い名前だね

 獣人の国から来たの? 何をしてて何があったの? 好きな食べ物は? 」


「ダスト、まだ病み上がりなのですよ」


「ごめん」


少女はクスクスと微笑んだ。

その笑顔は新鮮で、彼女への興味が一層深まったのであった。


日に日に回復して行く少女は、俺に色々な事を教えてくれた。


「私は今年で13(130年)に成るの、長寿で有名なエルフにも負けない位、獣人も長生きなのよ」


「俺より1歳上だったのか」


「エルフと違う大きな点は、活動年数が短いのよね」


俺は首を傾げた。


「分かり安く言うと、500年程度で能力が衰退して行くのよ」


「へえー」


エルフも衰退する事はあるが、寿命の約1年程前だと教わった。


「魔法は使えるの?」


「人族と同程度ね、媒体があれば使え無くも無いんじゃないかな、特有のスキルがあるから使った人は見た事が無いわ」


「そっか、使えない可能性もあるんだね」


「かもね」


話に盛り上がってると、母が診察室から出て来た。


「ダスト、森に入って食材を採って来てくれる?」


「はーい」


「私もリハビリついでに付き合うよ」


「うん、一緒に行こう」


俺とシリアは村を出て、森へと入って行ったのであった。































































































































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