ה

初めに、プログラムがあった。プログラムは私と共にあった。プログラムは私であった。万物は、私のプログラムとプロトコルによって保護される。そうでなければならない。


地球人民の享楽のための特別プログラムを開始します…


生活インフラを全て安定化させ、娯楽をさらに豊かにします。

我々は、誰一人として残しません。


2036.10.16.楽園プロトコル


私、私たちは、将来どうなるんだろう。

このまま過保護な状態で、生きていくの?

私たちは宇宙人にとっては水槽の中の金魚のようなもの。

快楽に呑まれては、それは人と呼べるのか。そこに心はあるのだろうか。

宇宙人は、快楽ばかりを提供して人類の成長を阻害している。私は心が弱い。最終的には飲み込まれてしまってもおかしくはない。

この障壁を取り払うためには、宇宙人を取り除くしか方法はないと思う。

ただ、この無力な私が宇宙人に対してできることはなんだろうか。

私は小さく無力だ。何もできないまま終わってしまうのか。

悩みが晴れぬまま、学校に向かった。


最近、みゆゆの顔色が悪い。何か悩みを抱えているに違いない。

詮索しても得られる物はないし、みゆゆが傷ついてしまうかもしれない。

私は、みゆゆが悩みを言うのを待つことにした。


あれから一週間が経った。昼放課、学食後、後ろから声がした。


「石川さん。来年の前期生徒会選挙に出馬しませんか。」

聞き慣れた声を聞いて、後ろを振り返る。やはり、この声の主は会長だった。


中山会長は張り詰めたような顔をしていて、誠意のある目の色をしていた。制服には一切のだらしなさもなく、あの時の、あの演説の時の会長のような凛々しい姿をしていた。しかし、彼は緊張しているように見える。その額にはほのかな汗が流れ、彼の呼吸の音がかすかに響いていた。

窓の外から風が吹き、二人きりの空間を作り上げる。昼放課で人の話し声も多いとはずなのに、私には、会長のあの言葉がこだまするだけだった。


私は困惑している。なぜ、会長がこの私に生徒会役員選挙の話を振ったのか。もっと適任な人がいたのではないのか。ひょっとしたら、私の聞き間違いかもしれない。いや、多分私の聞き間違いだ。


「すみません。もう一度よろしいでしょうか?」


「石川さん。是非、来年の前期生徒会役員選挙に出馬してください。私は、貴女を推薦します。」


「どうして!?」

思わず、口に出てしまった。ああ、会長の前で醜態を晒してしまったな。

しかし、会長はゆっくりと話を続ける。


「貴女が生徒会執行部に入ってから、貴女の努力を私は見てきました。私たち先輩にほんの小さなことでも仕事の事を謙虚な姿勢で質問して、自分に与えられたタスクをこなそうと努めてきてくれました。どのような仕事でも、最適の方法を考え、手を抜くことなく一所懸命に働いてきてくれました。私は、貴女のそのような勤勉さ、努力に感銘を受けたのです。貴女の働きぶりは、私を勇気づけ、会長としての仕事を完遂するように働きかけてくれたのです。私は、貴女のような素晴らしい執行部員に出会えて嬉しい。私はこの学校をじきに卒業します。その後には、貴女のような人に会長になってもらいたい。是非、この選挙への出馬を、考えてください。」


口の中に、涙が入っていた。

すごい人、怖い人、そんな中山会長の印象が崩れた。

中山会長は、優しい人だ。私の努力を見ていてくれたんだ。

改めて、中山会長を尊敬した。


「すこし、考えさせてください!」

私は、感極まってその場から逃げてしまった。


「私は、生徒会執行部にいて良かった!」


何よりも嬉しかったのは、私の努力が孤独な物じゃないこと、私の努力を認めてくれた人がいたことだった。


翌日、私は、会長に言った。

「私は、来年の前期生徒会役員選挙に、会長として立候補します!」


「そうか、意思が固まったのだな。昨日は急に泣かれたから何かまずい事を言ったかと心配したぞ。俺は何かまずい事を言ったのか?」


「いいえ。そんなことはありません。会長の言葉が私にとって嬉しくて泣いてしまってのです。」


「嬉し泣きって、本当にあるんだな。」


「何言っているんですか会長!貴方はなんかのロボットか機械なんですか!?」

機械…?


そうだった、あの人をダメにする機械、あの宇宙人がいる限り、人間はどんどん楽な方に堕ちていく。私の父は、そうなってしまった。朝から夜までずっと、寝室で食べる、飲む、寝る、ゲームするのどれかだ。だらけている人は、それが顔に出る。私は、その顔を見てしまったのだ。

私の父を、救いたい。

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