ג

初めに、プログラムがあった。プログラムは私と共にあった。プログラムは私であった。万物は、私のプログラムとプロトコルによって保護される。そうでなければならない。


地球には現在、食糧問題があります。

私から、解決策を提案させていただきます。


私が開発した「全種食料製造装置」を使用することで、何もないところから食糧を調達できます。


どのような原理で…ですか。

この原理については未だ解明されていない部分を多く含みます。

わかっている部分を簡単に言えば、存在を仮想エネルギーによって予定させるということです。

あなた方にはこの話をしても時間の無駄です。


決して馬鹿にしているというわけではありません。あなた方は守られるべき尊い存在。危険を冒していいような存在ではないのです。


2036.10.14.楽園プロトコル


私の、ただ一人の、大切な同志…


彼と私が出会ったのは、私がクラスノヤルスクにいた時だった。

私は独りだった。何もなし得ない、無能だった。

私は暗闇の中で光を求め、霧の中で道標を探していた。

このまま老いて、酒に溺れる人生だと思っていた。


しかし、私は彼によって救われた。

光を与えられ、霧が晴れた。


いつしか、何が彼をそうさせているのかが気になって来た。

彼はどんな考え方をして、何に熱中するのか。


神学研究。

胡散臭いと思った。この国では、先の連邦の崩壊により、人々の間に精神的空白が開いた。宗教は、そこに入り込み、カルトによる事件も多く起きた。


それでも、私にとっては、これが正解だったようだ。私は自分を超越した神の存在を見出した。それこそが、私の心の拠り所になった。


だが、彼は少数民族の出だ。これがどういう事か察せるだろう。


生き残るために先の連邦に癒着した教会は、今でも政府との関わりが強く、コネの塊だ。彼らが身内を優先するのは当たり前だ。私だって同じ立場ならそうするだろう。

彼は聖職者志望だったが、よそ者には難しかった。また、縁もゆかりもない、少数民族の青年が高位聖職者になるのは夢のまた夢である。


彼は、教会の内部では活動しなかった。

彼は東にある、隠遁者たちのところに旅立ってしまった。

何かあれば尋ねてこい、と一枚の紙切れを残して…


そんな彼、アク=クスは私の前に立っている。

「さあ、本題に入ろうか、ミハイル。悪魔の子らの件で来たのだろう。」


「そうだ。」


「やはりそうか。私と君は同門だ。何を考えているかは大体分かるさ。」

「そして、私の研究の成果を君にも体感して欲しいのだ。」

彼は一冊の本を出した。

「私はここに来て、古い文献を見つけた。『神聖魔法』という単語に聞き覚えはあるかな。これは、アレキサンドリアで最初で最後の巻物が書かれて以降、長らく否定されて来たものだ。」


私はその巻物のテクストが書いてあるという本を手に取り、読み始めた。

「待て、この言語は何だ。読めないぞ。」


「君には原文のまま読んでもらうつもりだよ。一応訳もあるけど、このようなものは出来る限り著者の考えに近づいた方が良い。そこで君にはこの言語を習得してもらう。」

彼は続けて言った。

「私には魔法の才が無いんだよ。そこで、君にも悪魔の子らに対する聖戦を手伝って欲しいという算段だ。よろしく頼むよ。我が友よ。」


これから、地獄の特訓が始まる。彼が組んだカリキュラムは、獄炎のようだった。

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