第2話 父と船
父にとって船は特別らしく、命同然の扱いをしていたように思う。「船に乗せて!」と懇願しても、沈着に断られるのがいつもの流れだった。
10歳になった日の翌日、父が「いいとこ連れてってやる」と言い出した。そうして連れてかれたのは港だった。(あの父さんが船に乗せてくれるのか?いやまさか、あの父さんが……)と考えていた。すると、そのまさかである。父が「乗れ」ととクレーンが付いた中型船を指さした。自分の船を持っている事は知っていたが、乗るところを見たことが無かったため、とてもビックリした。(せいぜい小型船くらいだろ)と考えていたので尚更だ。船の上の父は意外と優しく、操縦席に案内してくれ、席も用意してくれた。理由はおそらく船員のせいだろう。船員たちの前で息子に厳しい姿は見せたくないのかもしれない。「出発するぞー!」その声と共に船は出航した。海の上で浴びる海風は心地よく、これだけでもとても幸せだった。出航して間もなく、船員たちが話しかけてきた。船員たちは優しく、その内の一人が父の話をしてくれることになった。開幕早々「お前の父ちゃんはずっとお前の話ばっかするんだ」と言い出した。目を丸くして「そんな馬鹿なことがあるか!?」と叫びそうになりながら、心を落ち着け「本当ですか?」と聞いた。話を聞く限り嘘ではなさそうで、産まれた時の話や5歳の頃船に興味を持った話などをずっとしてくるそうだ。(あの父さんにそんな一面が!)という好奇心と(自分は初対面でも相手は自分を詳しく知っているのか?)という小っ恥ずかしい感情が入り交じり、複雑な気持ちだった。父の話を聞いていると、操縦席から「もうすぐ着くぞ!」と聞こえたので前方を見ると、洞窟があった。崖の下にあったので、(どうりで船で来たのか)とひとりで感心した。入ってみると、何故か奥に行けば行くほど明るくなっていき(なぜ奥が明るいんだ?奥に上に繋がる穴が空いているのか?)と考えにふけていると、大きな広間に出た。考えは的中し、広間の天井が吹き抜けになっていて、日が差していた。日光は青い海を照らしていて、とても神秘的だった。初めて船に乗った、という感動補正もあるのかもしれないが、それ込みでもとても綺麗な風景だった。その後は何事もなく洞窟から出て、海風を浴びながらゆっくり帰った。港に足をつけた時、父が「来年も連れてってやるよ」と言ってきた。私は嬉しくなり「うん!絶対行こう!」と言った。(父さんが誕生日の時も、何かプレゼントをあげよう!)と張り切った。
船の追憶 @komakuri
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