第46話 真の頂
神殿に戻ると、モンスターとの戦闘を思い出していた。森の中で繰り広げた数々の戦い、圧倒的な勝利。彼は自分が《剣の頂》の近いところにいるのではないかと考えていたが、それが明確な形として表すには、まだ不明瞭となっている。それは、ロイが世間から離れ、一人で生きて来たからだ。
(俺は、Bランクモンスターも、一瞬で倒せるようになった・・)
(剣士として、最強に近づいている気はするんだが・・)
(だけど、自分の強さの位置が、未だにわからない・・)
「
剣を軽く振り上げた。その動きはすでに無駄がなく、鋭さだけでなく、完璧な技術と制御を備えている。剣の振り下ろしは、まるで風そのものが切り裂かれるように静かで、圧倒的な力を内包していた。
スターナイトと共に歩んだ修業の数々、数多の敵を倒してきた今は、確実に力が自分の中に根付いている。それでもまだ満たされない何かが胸の奥に残っているのだ。
(剣技も極めた。スキルも覚醒させた。・・)
(でも、まだ何か・・・)
剣を収めると、剣技が完成していることは明白。しかし、それだけではまだ足りないこともまた事実。神殿での修業は、肉体的な強さをもたらしたが、精神的な強さは中途半端で、浮き沈みの不安定な状態の時もあったが、剣技もスキルも完成した今、精神力を求めるものへ変わるのは必然なのかもしれない。
ロイは力だけでは到達できない、もっと高次元の強さ――それを掴むためには、心の修業を欲しているのだ。
(今まで、疎かにしてきた精神を・・)
(本当の意味で鍛える時が来たのかもしれない・・)
これまでの修業で体を極限まで鍛え上げてきた。だが、力に頼りすぎるだけでは、本当の強さには辿り着けないことを分かってはいた。それでも先に鍛えるべき所を鍛えないと、先に進めないから、後回しにしていたのだ。
力に溺れることなく、精神的にも強くなる。それが、《頂の剣士》としての存在を確立するために必要なこと。力を持っているだけでは、本物の剣士とは言えない。真に強い者であるためには、心が強くなければならないのだ。
「この神殿は精神の修業もできるのか・・?」
彼はそう呟きながら、神殿の奥に歩き始めた。静寂な祭壇、そこからさらに奥へ広がる場所を見つけると、そこで誰とも話すことなく、ただ自分自身と向き合うために目を閉じ、深く息を吐く。孤独は、精神を磨き上げる最も過酷な試練である。
(孤独に耐えられなければ、本当の強さは手に入らない・・)
剣を振るう相手もおらず、ただ自分との対話が続く日々。修業の時は孤独な気持ちを置いてきぼりしていたが、それを最近になって思い出し、苦しみを感じていた。身体の修業は終わりに近づいてたからこそ、思い出したのだろう。そのため、心の修業は今始まったばかり。誰もいない神殿の中で、自分と向き合うことこそが、《頂の剣士》になるための最後の試練。
(前に考えていた。力を持つ事の意味・・)
(これが終えた時には、分かる気がする・・・)
ロイは心の中でそう自分に言い聞かせながら、ふと目を開けると、気づけば目の前には古びた扉があり、まるで彼を待ち受けているかのようにそびえ立っている。急に現れた扉に一瞬驚きためらうが、急に現れたということに意味があるかもしれないと考え、扉に手を伸ばしていた。
(何か答えを見つける手がかりがあるのかもしれない・・)
扉をゆっくりと押し開けると、そこには広大な空間が広がっている。薄暗い部屋の中央には、大きな石碑が立っており、その周囲には古代の文字が刻まれていた。ロイはその文字を読み取ろうとしたが、内容までは理解できない。
(これは、何だ?・・)
その場に立ち止まり、石碑をじっと見つめる。何かが彼に語りかけてくるような感じるが、それが具体的に何であるのかは分からない。ただ、この場所は非常に古く、どうして魔の森に神殿があり、結界が施され、スターナイトがここに存在していたのか、この読み取れない文字に書かれている気がするのだった。
ロイは石碑の前に立ち、再度目を閉じる。静寂が彼の心を包み込み、意識が深く沈んでいく。彼の中で、これまでの戦いがフラッシュバックのように甦り、数々の敵との戦いが頭の中を巡っていく。
(《剣の頂》とは、何だ・・)
(神殿やスターナイトは、何だ・・)
(強さとは、いったい何なんだ・・・)
その問いが、何度も何度も頭の中で反響する。剣での力だけではなく、精神的な強さを得ること――それが、この神殿での修業の最終目的であることは明らか。だが、具体的にそれがどういう意味を持つのか、まだ理解していない。
(・・・・・・ふぅ)
ロイは静かに目を開ける。そうすると、石碑がかすかに光を放っているのを感じ、彼は無意識に剣を握りしめた。まるで石碑が何かを伝えようとしているかのような気配を感じたのだ。
彼は剣をゆっくりと抜き、静かに構え、石碑の前で、彼の心は穏やかに澄み渡る。今までの戦いの中で感じていた焦りや苛立ちは、すべて消え去っていく。その時、声が聞こえたのだ。
【強さとは、己を知り、人を知る。
優しさを知り、
【それが、真の
その言葉が、頭の中に入ってきた瞬間、ロイは本当の強さの意味を理解したのだ。
強さは、力ではない。心の強さが、本当の強さ、それが本当の意味で《頂の剣士》になれるということ。頂とは、自分を信じ抜く心の強さ――それが必要なものだったということを、ロイは悟ったのだ。
これで、力だけではなく、精神的な強さを手に入れた今、彼にはもはや迷いはない。もう一度、石碑を確認し、それを背に、神殿の出口に向かって歩き出す。
「これで、いいんだな・・」
そうして、とても長かったロイの修業の生活が終わりを迎えようとしているのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます