第45話 『十帝』の極意
あれからロイは周囲の風景を見渡していた。森の中、空気が澄んでいるように感じる。だが、それ以上に、ロイ自身の感覚がさらに鋭くなり、視界に広がっている時間がゆっくりと流れているように見えるが、それは錯覚ではない。実際には、ロイの動きが光の速さに近づいていることで、周囲が遅く見えているのだ。
「『十帝』の力・・」
(『十帝」を授かった俺だけの力・・・)
ロイは周囲を見渡す。半径100メートル以内のすべてが、まるで停止しているかのように感じられる。木々の揺れ、風の音、鳥の鳴き声さえも、すべてが遠く感じ、その感覚は、これまでとはまったく異なっていた。
ロイは一旦、速さの確認と、どれぐらいの速さなのかを図るため、軽い石を下に落とし、今いる自分の場所から100メートル離れている所まで行き、戻ってくることを試してみる。
そうすると、100メートル離れた場所には0.1秒で着き、0.2秒経った時には、石を落としていたところに戻っていた。石はまだ地面につかずゆったりと地面に近づこうとしているところだった。これで、ロイははっきりするのだ。自身の周囲半径100メートル以内は0.1秒、直径200メートル0.2秒で戻ってこれるのだ。
そう考えると、ロイが動き出す時、そこにいる全てのものは遅く、彼の時間は光の速さで動いているのだ。またこの速さに加え、力も規格外。山を一殴りの拳だけ破壊することができる力をもっているならば、もはやロイについてこれるものなどいないということである。
(自分の速さを試してみたけど・・)
(俺が、こんな速さで動いているなんて・・)
自分の動きがどれほど速いかを認識すると、ロイは驚きを隠せない。だが、それと同時に、この力を完全に支配できるという確信が今はある。
ロイは剣を軽く振り上げ、振り下ろす動作もまた、一瞬の出来事。ロイには普通に見えているが、普通の人やモンスターには見えない。動いたかすらわからないのだ。そうなると刃が空を切る音、これが遅れて聞こえるほどだ。剣の一振りで、前方の木々が切り倒される。
「はは。これが俺の剣」
ロイは力を完全にコントロールできる今、剣の一振りでどんな敵も倒すことができる。敵の動きはすべて停止しているように見え、彼にとってはすでに勝利が約束されたも同然。
(これなら、どんな相手も、俺には敵わないはずだ・・)
その言葉に、自信が満ちあふれている。しかし、冷静さは失わない。この力を誇示するつもりはなく、ただ、自分に課された使命を果たすために使うつもりでいる。彼は『十帝』の力を与えられた理由を理解するために。
(これで、すべての敵を、一瞬で無力化できる・・)
彼には余裕があり、どんな敵が現れても、光の速さで動く自分に対抗できる者などいないことが分かっていた。ふと、気配を感じ取る。森の奥深くから、またモンスターが接近してきているのだ。しかし、ロイにとってはその動きさえも遅すぎた。
「来たな・・」
ゆっくりと剣を持ち上げ、冷静な目で前方を見据える。100メートル以内に入る瞬間、敵はすでに無力化されている。彼にとっては、もはや止まっているも同然の動きだ。自身の動きが、光の速度で展開している時、力を完全に支配しているのだ。
「一瞬で終わらせる・・」
敵の姿が見えた瞬間、一気に距離を詰めた。時間がゆっくりと進んでいるかのように感じられる中、彼の剣が振り下ろされる。敵は動くよりも先に、光が通ったかのように、剣はすでに振り切られていた。
(これが......全ての『十帝』の力だな)
剣の一振りで、目の前のモンスターが一瞬で崩れ落ちた。斬ったモンスターはコカトリスだった。どれほど強力な敵であろうと、この力の前では無力。剣を振るうだけで、すべての敵を打ち倒すことができる。それが『十帝』の極意だったのだ。
(やっと、俺の剣技も完成したな・・)
その時、スターナイトもロイの覚醒を喜び祝福するかのように、剣の描かれている星々が光輝いたのだ。
ロイは立ち尽くし、自分が到達した境地を感じている。もうこれ以上、剣技に不足はない。力の使い方も、すでに完全に自分のものとして習得している。剣を握る手には迷いがなく、その一振りには確信があった。
(これで、本当に守りたいものを、守れる気がする・・)
だが、その想いには慢心はない。ただ、冷静に自分の力を受け入れているだけだ。ロイは自分が手にした力の脅威と強さを痛いほど理解はしている。この力は慎重に使うべきことを忘れてはならないのだと。
森の中は静寂に包まれ、深呼吸をすると、ゆっくりとその場を後にする。そろそろ神殿に戻るべきと考えているのだ。そして、これまでの修業と戦いを経て、彼はついに『十帝』の極意を手に入れ、剣技を完成させた。
(これから先.......何が待っていようと、もう恐れることはない)
剣を握る手に確かな力がこもりながら・・。
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