第44話 Bランクモンスター

 ロイはスターナイトを握りしめ、森の奥深くへと足を進めていた。これまでの戦いと修練のおかげで、彼は力が大幅になっている。だが、まだ足りない。これまで倒してきたモンスターは、いずれも自分の力を試すには物足りない。


(トロールも強いと思ったが、まだ足りないな・・)


 彼は立ち止まり、周囲の気配にモンスターがいないか探す。風の音、木々の揺れ、鳥のさえずり。それらが静かに響く中、感覚がさらに研ぎ澄まされていく。森の奥に進んだところで、Bランクの強敵たちがこの森の奥に潜んでいることは、彼の直感で感じ取っていた。


 それもそうだろう。なぜなら、ロイはこの森がどういった場所か知らないからで、ここは人が暮らせるような森ではなく、モンスターが多数いる〘魔の森〙と呼ばれる森であるからだ。魔の森には、モンスターがひしめき合い、弱いモンスターは強いモンスターの餌となり、強いモンスターはさらに強いモンスターの餌になる。まさに弱肉強食の世界なのだ。


 その世界で、2年間も生きてきたロイが異常なのだ。確かに神殿の中はモンスターからの襲撃は受けないが、それでも9歳にもなった彼が生きているのは、そもそも生きる強さがあるという証拠だろう。

 ただ、2年間も飲まず食わずで、生きていけるはずがない。


 彼の生活を支えていたのは、神殿の中に飲める水があり、神殿のすぐ側には木の実があったおかげでもある。だがらこそ、神殿の中で、剣を振り続け、修練を2年間も続けられたのだろう。



(足音が近づいてる・・)

(来るか・・)


 遠くから大地を揺るがすような足音が響いてきた。トロールの時と同じように、Bランクモンスターのレベルは、大地そのものを震わすことができる力がるかのように、足音はゆっくりと近づいてくる。ロイは剣を構え、その音の主を待ち構える。緊張感は感じられない。むしろ、彼の頭の中は冷静な状態である。


 やがて、森の中から姿を現したのは、巨大なコカトリスだった。その大きい翼を持ちながら、羽毛に覆われ、足には大きな爪を持っている。獰猛な口ばしと餌を狙う目で睨みつけている。だが、ロイは微動だにしない。


「これはまた大物だな・・」


 コカトリスが咆哮を上げながら翼を羽ばたかせながら動かす。しかし、ロイにとってその動きはあまりにも遅い。彼の動きはすでに光速に近く、コカトリスの羽根がゆっくりと動いているようにしかみえないのだ。コカトリスは、餌を前に口を大きく開き、食べようとしてくるが、その攻撃がスローモーションのように見え、一瞬で間合いを詰め、スターナイトで横に切り裂く。


(こいつも遅いな・・)


 剣がコカトリスの胴体に深々と食い込み、羽根が宙に舞いながら崩れ落ちる。ロイは一歩も動かずに、その巨体が倒れるのを見届けた。圧倒的な力での一撃だったが、それでもまだロイは満足していなかった。もっと強い敵を倒したい――そんな思いが胸の中で渦巻いているのだ。


「これがBランクレベルのモンスターなのか・・?」

(これじゃあ、Bランクモンスターも俺には敵わない気がしてくるな・・)



 次の獲物を探すために、霧がかかっている場所を目指して歩く。視界は見えにくいが、周囲を見渡すと、モンスターとは少し違う存在が浮遊していることに気づく。


「あれは、なんだ・・?」


 浮遊していたのはゴーストの集団だ。霧のような形をした存在が、ゆらゆらと宙を漂いながら霧の中で漂いながら近づいてくる。彼らは物理的な攻撃を受け付けない厄介な敵だ。ロイにとって、ゴーストのような存在は初めて見る。生物ではなく、悪の魂が死なずに存在しているなど、見る機会がないからだ。


 ロイはスターナイトを構え直し、目を閉じ、ゴーストたちの動きを感じ取る。ロイは一か八か物理的な攻撃が効かない存在に対して斬り込む。しかし、スターナイトはただの剣ではなく、霊的な存在さえも斬ることができる武器。スターナイトがゴーストの群れに振り下ろされた瞬間、彼らは次々と光となって消えていく。


「すごい。物理的な攻撃が効かなそうな相手でも斬れるんだな」


 ロイはゴーストたちが消えるのを見届け、再びその剣を収める。いかなる敵であろうとも、自分の前では無力だという確信が、彼の中に芽生え始めていた。


 それでもまだ、森の奥からさらに強力な気配が近づいてくる。ゴーストによって作られていた霧の状態が消え去ると、すぐにその存在を感じ取り、目を細める。次に来る相手は、今までのBランクモンスターの中では少し格が違うプレッシャーが辺りを支配している。


(・・・・)


 現れたのは、巨大なマンティコアだ。獅子の体に蝙蝠の翼、そして毒のある尾を持つ、凶悪なモンスター。その全身からは強烈な殺気が漂っており、付近の森にいるモンスターはその存在を恐れているかのように静まり返っている。


 ロイは冷静に息を整える。マンティコアは確かに強敵だが、今の自分にとっては決して倒せない相手ではない。それを理解しつつも、気を引き締め、スターナイトを構え直す。


「さあ、来い……」


 マンティコアが鋭い咆哮を上げ、そのまま突進してくる。地面が割れるほどの力で前進してくるその巨体に、ロイは瞬時に反応し、光のような速さで横に飛び退く。そして、次の瞬間にはすでにマンティコアの背後に回り込んでいた。


「遅い!」


 一気に間合いを詰め、スターナイトで背中を斬り裂く。マンティコアの背中に剣が深く食い込み、その巨体が苦しそうに咆哮を上げる。しかし、今までのモンスターと違い、スタミナと一瞬ではやられない強さはあるようだった。だが、ロイは苦しんでいる隙を見逃さずに、さらに連続して剣を振り下ろした。


「これで.....終わりだ」


 弱まっている状態のマンティコアの首に、最後の一振りを下すと、マンティコアの首から胴体が離れ、力尽きた。地面に倒れると、ロイは深呼吸をする。今までのモンスターより圧倒的にスタミナがあったが、全ての力を出し切ることなく勝利を収めた。



 ロイはBランクのモンスターであっても、もはや脅威ではなかった。光速の動きとスターナイトの力があれば、どんな相手でも倒せるという確信が、彼の中に確立される。


「これ以上の強敵は、ここにはいないか・・」


 そう呟きながらも、もっと強大な敵、もっと自分を試せる存在と戦いたいという欲望が、彼にはあった。冷静さを保ちつつも、さらなる高みを目指して歩みを進めるしかない。


 ロイの剣技は完成に近づいおり、『十帝』の力もほぼ完全に支配している。次に待つ戦いが何であれ、彼はそれに立ち向かう覚悟を決めていたのだった。

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