第43話 身体の力

(・・・・・)


 あれからも森の中で、剣を握りしめ、モンスターに苛立ちを感じながら、立っていた。しかし、何度もモンスターとの戦いを繰り返していたため、ロイの苛立ちとは別に、彼の身体は限界を超えようとしていた。


 風が木々を揺らす中、体中に流れる力は、以前より、力がみなぎり、視界が広がり、時間がゆっくりと流れているようにさえ感じられる。それにより身体と力の強さが、虚無感を与えているのだ。


(クソッ・・!)

(周りの森の木々や、風の音、川の流れる音もでも、遅く感じてきた・・)


 息をするたびに、空気が鮮明に遅く感じる。それから筋肉の一つ一つが、今まで以上に力強くなり、まるで自分が無限の力を持っているかのように思える。木々のざわめきが一瞬で静まり返り、世界がロイの周りで遅く動いているような感覚だ。


(はぁ、イライラするが、、。)

(それよりも、周りが停まって見える.......)


 ロイは、再度深く深呼吸をすると、一旦苛立ちを落ち着かせ、静かにその力を感じ取る。そこから呼吸を整え、地面に足を踏みしめた。まるでその一歩一歩が大地を砕きそうなほどの重みだ。


(・・やってみるか)


 試しに近くの岩に向かってスターナイトを軽く振るった。一瞬で剣が岩に触れ、岩が何の抵抗もなく粉々に砕ける。ロイはその光景に驚愕の表情で見つめ、自分が今、どれだけの力を持っているのかを実感しているのだ。この強さでは、山を一瞬のうちに無に帰すこともできるだろう。


「本格的なバケモノになったか・・?」


 ロイは苦笑いしながら自身を、卑下してしまう。それでも、その力を手にした喜びは顔に出さないが、心の中にはあるようだ。また、喜びとは別に何か違う感情が胸の中に広がっていくのを感じている。この力は、あまりにも強大すぎる。制御できなければ、どこかで自分を壊してしまうかもしれないと。


(コントロールしないと、これこそ危険だよな・・)


 今の力が制御不能になり、取り返しのつかないところまで行ってしまうのではないかと、本能で恐れを感じ始める。圧倒的な力を正しく使うには、今のままでは不十分。だけど、力を手にしたことで、新たな課題が生まれ、孤独による虚無感から、少し解放された。新しい課題に集中している間は、孤独を感じなくていいからだ。


(この課題は、慎重にしていくべきだよな・・)


 身体しんたいのステータスがこの世界では、誰一人としていない【無限】に近づついている証拠なのだ。目の前に立つ木々に対して、ロイは拳を構えて、試しに一殴りしてみた。


「・・!?」


 拳の一殴りで軽々と木々が破壊し、その後に残ったのは土と直に繋がっている木の幹ばかり。それと殴った勢いに伴って流れる風の音だけ。ロイはその拳の一殴りで、森の中に一瞬で道を作り出した。その威力は圧倒的に恐ろしいものでもあった。


「すげぇ・・・」

「だけど、方向を間違うと、全てを壊してしまうな・・」


 自分の力は圧倒的であるがゆえに、扱いを誤れば周りに甚大な被害を与えてしまうことを痛感する。だからこそ、彼はこの力を慎重に扱う術を学ばなければならない。



 スターナイトを鞘から抜くと、無理に力を出しすぎることなく、身体しんたいと剣を連携させて、どれだけの力を使うのかを計算していく。今の剣の一振りで何を破壊し、何を守れるのか。力を手にした今だからこそ、さらに冷静さを保つ必要があった。


(力だけ持つのは、良くない・・)


 再びスターナイトを振り下ろし、慎重に剣を動かす。以前ならば全力で振り抜いていた剣の動きも、今では抑制しながら使いこなそうとしている。力を出しすぎないように、かといって弱すぎては意味がない。以前もバランスを大事に剣を振るっていたが、さらにバランスを取りながら、剣を振るう。


 森の中では、風が静かに流れていて、その風の流れに合わせるかのように、剣の動きをコントロールしていく。無限に近い力を手にしながら、それをいかに抑制するかが彼の課題となった。


(この力.......ただ強ければいいわけじゃない・・)


 自分の中にある力を〖正しく使いこなす〗こと。それが新たな修業となる。強大な力は魅力的だが、それを使いこなせなければ、ただの破壊の道具に過ぎない。そのことを痛感し、慎重に力を磨いていく。


 剣の一振りで木々が切り倒されるのではなく、ただ風を感じる程度の動きに抑え込む。そんな微細なコントロールができるようになるため、何度も剣を振り続けた。森の中にただ一人、静かにその力と向き合いながら。





 剣を振るい続け、無限に近い力を得た今、その力が自分のものになるか、それとも制御できずに暴走するかは、すべてロイの腕にかかっている。剣の一振りで木々が倒れ、岩が砕ける。そのたびに焦りを感じてしまう。


(難しいな...力が出過ぎてる・・)


 今は力を抑えられず、全力で振り抜けば周囲すべてを破壊しかねない。


(このままじゃ、周りに何があっても......)


 ロイはふと、過去の自分を思い返す。無力だった頃はただ強くなりたいという思いに突き動かされていた。だが、今はその願いが叶っているにもかかわらず、また新たな壁が立ちはだかっている。それは「力の制御」という、自分自身との戦いだった。



(ただ強ければいいってわけじゃないんだ・・)




 もう一度、ロイは剣を構える。今度は力を極限まで抑え込み、慎重に振り下ろす。その動きは、先ほどまでのように爆発的な威力はなかったが、確実に狙い通りの斬撃を繰り出すことができた。


「よし!少しずつ、コントロールできてきたぞ!」


 自信を少し取り戻しつつ、ロイは剣を振り続けた。力を出しすぎないように注意しながら、しかし十分な威力を持った一撃を繰り出す。


「これが.....俺自身が本当に望んでいた力だ!」


 さらに剣技を磨いていく。木々の間をすり抜けるように動き、剣を振るうたびに風を切る音が森の中に響き、剣技はますます鋭さを増していきながら、無駄のない動きへと変わる。そして、身体しんたいのによる力と速さも、洗礼されていく。


 その時、ふと周囲の気配が変わるのを感じる。ロイはすぐに修業の動きを止め、周囲に意識を集中させた。森の奥から、異様な気配が漂ってくる。次なる敵が、彼を試すために現れたのかもしれない。


「来るか・・」


 ロイは剣を握り直し、目を細めてその気配を探る。気配の主はまだ姿を現していないが、その圧倒的な存在感が森全体を包み込んでいた。これまでのモンスターとは違う何かが、ゆっくりと近づいてくる。


(力を試されているようだな.....)


 静かに呼吸を整え、剣を構える。この試練を乗り越えなければ、さらなる高みへは進めないだろう。


「慎重に...コントロールを...」


 やがて、森の奥から巨大な影が姿を現した。それは今まで戦ってきたモンスターとは違い、より異質で、より強大な存在感を放っていた。ロイはその姿に一瞬たじろぐものの、すぐに心を落ち着かせた。


「来い……!」


 巨大なモンスターがロイに向かってゆっくりと近づいてくる。その一歩一歩が地面を揺らし、森全体がその重みに耐えかねているようだった。このモンスターは、トロールである。トロールは、討伐レベルがBランクで、完全に上位のモンスターだ。


 B級の冒険者5人以上のパーティを組んで行う。基本的に単独討伐は禁止されている。ソロで討伐してよい冒険者は、並外れた強さと経験がなければ、依頼を受けれない。いわば、上位ランク(Bランクから)モンスターは、パーティ組むことが普通のため、SSSランク~Aランク(2人パーティ以上)の冒険者でしか依頼に行けないということだ。


 そのため、ロイは冷静にその動きを観察し、相手の隙を見つけるタイミングを探る。


(焦るな....まずは相手を見極めるんだ)


 トロールが大きな腕を振り上げ、ロイに向けて振り下ろしてくる。その瞬間、ロイはその動きを一瞬で見切り、横へと飛び退く。巨大な腕が地面に激突し、周囲の木々が揺れる。その隙を逃さず、一気に距離を詰める。


「これが、今の俺の力だ・・!」


 スターナイトを一閃し、モンスターの巨体に向けて振り下ろした。剣の刃がモンスターの肉体を容易に切り裂き、とてつもなく大きい巨体が崩れ落ちる。しかし、Bランクモンスターとなれば、すぐに警戒を解くことはしない。冷静にその動きを見届けながら、剣を構え直した。


「・・これで、終わったか?」


 トロールはその場で動かなくなったため、静寂が森の中に戻る。静けさの中で、今の自分の力を再確認する。確かに圧倒的な力を手に入れたが、それを使いこなすための戦いはまだ続いている。


(力を持つことの意味....必ず見つけよう...)


 剣を鞘に収め、再び森の奥へと足を踏み出す。試練は終わっていない。彼の目指す道は、まだ遠い先に続いている。力を手にし、その力を正しく使うために、前に進んでいく。

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