第32話 神殿調査
翌朝、ロイは宿屋の窓から差し込む朝日で目を覚ました。部屋の中は静かで、外からは街の朝のざわめきが微かに聞こえてくる。体を伸ばしながら、深呼吸をした。
「よく眠れたな」
宿屋のベッドは思いのほか快適で、前日までの疲れがすっかり取れていた。軽く背中を伸ばしてから、身支度を整える。今日は特に急ぐ用事はないが、ギルドに顔を出し、次の依頼について考えるつもりだった。
軽く顔を洗い、宿屋の主人に挨拶をしてから外に出ると、朝の空気は澄んでおり、街の中を歩く人々もどこかゆったりとした雰囲気を醸し出していた。ロイは少し街の中を散策しながら、ギルドへと向かう。
ギルドに到着すると、昨日と同じように冒険者たちが賑やかに集まっていた。その光景を見て、自然と顔がにやけてしまう。カウンターにはいつもの受付女性が座っていて、ロイを見ると優しく微笑んで迎えてくれる。
「いつも活気があるな…」
「おはようございます、ロイくん。今日も何かご依頼ですか?」
軽く頷きながら、依頼の一覧が貼られた掲示板に目を向けた。
彼女は手元の書類を整理しながら、話しかけてくれる。
「おはよう」
「うん。何かいいのがあれば、受けようかと思って」
「今日は特に物資運搬や薬草採取の依頼が多いですね」
「簡単な依頼がほとんどですね」
その言葉を聞いて、ふと考え込んだ。冒険者としての生活には慣れてきたが、次の一歩をどう踏み出すべきか迷い始めていた。
「どれにしようか・・」
掲示板を眺めながら、ふとある依頼が目に留まる。それは、街の外れにある古びた神殿の調査依頼だった。依頼内容には「モンスターの出現は確認されていない」と書かれており、ロイの目を引いてしまう。掲示板から依頼書を取り、受付の女性に差し出した。
「これなら、安全そうだし、面白そうだな」
「これを受けてみるよ。神殿の調査っていうやつだ」
彼女は少し驚いた表情を浮かべ、少し考えこんだ後、依頼を了承して確認してくれる。
「この神殿は長い間誰も近づいていない場所で、調査の必要が出てきたようです」
「記録にはモンスターの出現は確認されていないとはいえ、十分注意して進めてください...。」
「分かった。気をつけて行ってくるよ」
「そういえば、お姉さんの名前を今の今まで聞いていなかった気がする」
「聞いてもいい?」
「あっ、教えていなかったでしたっけ?」
「私の名前は、ルルカと言います。以後お見知りおきを」
「ルルカさんね。じゃあルルさんで!」
「はい!今後もよろしくお願いしますね。ロイくん」
詳細な説明も聞いた後、今まで受付女性の名前を聞きそびれていた。ロイはどこか名前を聞くことを忘れてしまうクセがあるのだ。
それから、依頼書を手にギルドから離れて、今回の神殿調査依頼について考えていた。
(神殿調査依頼は簡単な仕事のように見えるが・・・)
(モンスターが出現しないとは限らないから、常に慎重に進めないとな・・・。)
神殿への道は街から少し離れた丘の上にあると聞いている。道中は特に危険はないが、昔から不気味だと言われている場所だという事も、ルルカが耳にしていると言っていた。
街を出てしばらく歩いていると、次第に道が狭くなり、草木が生い茂るようになってくる。辺りには誰一人としていない。鳥の声も聞こえず、風の音だけが耳に響く。
「静かだな・・」
ロイは周囲を警戒しながら、道を進んでいった。依頼書に記された地図を確認しつつ、目的地の神殿へ向かう。やがて、遠くに古びた石造りの建物が見えてきた。
(これが、神殿か....)
神殿は思っていた以上に大きく、老朽化した石材が年月の流れを感じさせる。ロイは足を止め、しばらくその姿を見上げる。
「特にモンスターが出るような気配はなさそうだ・・」
軽く肩をすくめて、神殿の中へと足を踏み入れた。中はひんやりとしていて、外の暑さが嘘のように感じた。石の床はひび割れており、壁には古い文字が刻まれている。
「この文字は...なんだ?」
壁に刻まれた文字に興味を抱いたが、読めるものではない。古代の言葉か、あるいは忘れられた魔法に関するものかもしれない。しかし、それを解読する手段はロイにはなかった。
「まあ、調査するのは外観と内部の状態だからな....」
調査の目的を思い出し、神殿の内部をもう少し見て回ることにする。柱の間を抜け、奥へと進んでいくと、古びた
「これが中心か…」
祭壇の上には何も置かれていないが、周囲にはかつて誰かが儀式を行っていたかのような痕跡が残っていて、慎重に近づきながら、その周囲を確認する。
「特に危険はなさそうだな・・」
しばらく調査を続けたが、特に問題は見つからなかった。モンスターの気配もなく、依頼通りの安全な場所だと感じたので、調査を終え、神殿を後にすることにした。
街に戻る道中、少しばかり安心していた。モンスターも出現せず、危険そうなことは一切なかったからである。また、特別なことはなかったが、こうして一つ一つの依頼を遂行することが冒険者の仕事と感じたのだ。
「依頼調査も悪くないな・・」
神殿での調査は思っていた以上に簡単な仕事だったが、興味深い経験だ。古代の遺跡や歴史を感じる場所に触れることができたのも、冒険者としての一つの醍醐味なのかもしれない。
ギルドに戻ると、ルルカに調査の結果を報告する。
「お帰りなさい、ロイくん。調査はどうでしたか?」
「特に問題はなかったよ」
「モンスターも出なかったし、神殿の状態もほぼ予想通りだった」
「ありがとうございます。これで神殿の調査は完了ですね。報酬はこちらです」
彼女は報告を記録して、報酬を手渡す。ロイは手渡された銀貨2枚を受け取り、依頼を終えたことに安心したのだった。
「よし、これで今日も依頼完了だな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます