第31話 農夫のジョブスキル
街を出て、運搬の依頼で荷物を農場まで届ける道を歩いていた。天気は穏やかで、日差しが心地よい。
軽く汗をかきながら、荷車を押しながら進んでいく。そうすると街から遠ざかるにつれ、静かな田舎の風景が広がり始める。
「この辺りは、静かな場所だな・・」
周囲を見渡すと、道端には野花が咲き、小鳥の鳴き声が遠くで響く。これまで街の明るさに囲まれていたため、この静けさが妙に心地よいものに感じられる。まるで2年前に住んでいた場所みたいだった。
「まあ、こういう仕事も悪くないな」
依頼は、街から少し離れた農場へ食糧や工具を届けるという簡単なものだ。モンスターが出る心配もなく、ただ荷車を押しながら進んでいけば良いだけの仕事。ロイは気楽な足取りで進める。
やがて、小さな丘を越えると、遠くに目的地である農場が見えてくる。広大な畑が広がり、家畜の鳴き声が風に乗って聞こえる。一瞬足を止めて、その光景を眺めた。
「ここが目的地か・・。」
道沿いに進んでいくと、農場の入り口に近づくと、中から作業服を着た農夫が顔を出し、ロイに手を振っている。
「そこの兄ちゃん、ギルドから来たのか?」
「そう。ギルドの依頼で荷物を届けに来たんだ」
頷きながら荷車を押して農場の中へ入ると、農夫は、ロイの
「おお、助かるよ。そこの倉庫に運び込んでくれると助かる」
その指示に従い、荷車を倉庫の中まで押して行く。荷車から荷物を一つずつ降ろし、農夫と軽く会話を交わす。
「ここはのどかだね・・」
「モンスターは出たりしない感じ?」
「ああ、ここは平和なもんさ。モンスターが出るのはもっと北の山の方だ。俺たちは畑を
その言葉に安堵し、最後の荷物を倉庫に運び終えた。農場の仕事は力仕事が多いのだろう。彼の体には筋肉がついていて、日々の重労働が
「これで全部かな?」
「ああ、助かったよ。おかげで今日の作業が楽になった。お前さん、子供のわりには、ずいぶんしっかりした体をしてるな。冒険者ってのは、やっぱり鍛えられるもんなんだな」
荷物を降ろし終えると、農夫は満足そうに頷き、ロイに感謝の言葉を並べる。その言葉に少し照れくさそうに肩をすくめた。
「冒険者登録したばかりの駆け出しだけどね」
「でも、こうやって依頼や修練するうちに、少しは体も慣れてきたかな」
「そうかそうか。これからも頑張れよ」
「俺たち農夫も、頑張って畑を耕しながら生きてるからなー」
「うん。あのさ、一つ質問していい?」
「ああ、かまわんよ。なんだ?」
「ジョブスキルって何か聞いても大丈夫?」
「ジョブスキルかー」
「普通はスキルを人に聞いたり、話したりするのはよくないが、、。」
「今回は、教えてやろうか・・」
普段、ジョブスキルは聞いたり話したりするのは禁止されている。それは、レアなジョブスキルが出現した際に、スキルを持つ人間を誘拐や奴隷にしたりして、その力を使い戦争や略奪、暗殺などに利用されたりするからである。しかし、ロイの人柄と悪さをするような人には見えないため、農夫は教えてくれるのだった。
「俺のジョブスキルは、『斧士』だ」
「すご!俺は正体不明のスキルで『十帝』だったよ、、。」
「『十帝』?聞いたこともないなー」
「でしょ?まぁースキルなしで、強くなるしかない感じ」
「そうかぁ。まぁー頑張るのだぞ」
「ありがとう」
「じゃあ、そろそろ戻るよ」
そう言って、再び荷車を引いて街へ戻ることにした。農場での依頼は無事に終わり、帰り道は行きよりも荷物がないので軽く進んでいく。
(こういう仕事も悪くないな・・・)
冒険者としての生活に馴染んできているのを感じながら、街へと戻っていった。ギルドに戻ると、いつものように受付女性がロイを迎えてくれた。
「お帰りなさい、ロイくん。荷物は無事に届けられましたか?」
「うん、農場にちゃんと届けてきたよ。何も問題なかった」
ロイは頷きながら、荷車をカウンターの隅に止めると、彼女は依頼書を確認し、報酬の銀貨3枚を手渡す。
「お疲れさまでした」
「また、何かあればいつでも相談を受け付けていますので」
「うん。ありがと」
その言葉に頷き、再び街の中へと戻る。農場での平和な仕事も、日常の一部として積み重ねられていく。街の中を歩いていると、食堂から良い匂いが漂ってくるのだ。その匂いにロイの腹がぐぅーっと鳴り始めたので足を止めて、その店に入ることにした。
「依頼遂行でお腹も減ったし、しっかり食べるか!」
「いらっしゃいませー、空いてる席どうぞー」
店員は忙しそうに動いていたため、軽めな掛け声をしていた。そのため空いている席に座り、メニューを広げる。街の食堂は賑やかで、多くの冒険者や商人たちが食事を楽しんでいた。
(この時間も、悪くないな・・)
頼んだ食事を食べ終えると、少しだけ街を散策することに。街の賑わいが夜に向けて増していく中、ロイは自分のペースでゆっくりと歩く。街の人々が笑顔で話しているのを見て、何故か楽しい気持ちと切ない気持ちになった。
その夜も同じ宿屋に戻り、ベッドに腰を下ろす。今日の修練と依頼を思い出し、日々の成長は特別な戦いだけでなく、こうした日常の中でも少しずつ形作られていくものだと感じるのだった。
「次も新しい依頼に挑戦してみるか・・・」
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