第30話 運搬
ロイは訓練場の門をくぐると、軽く体を伸ばす。朝日が訓練場の広場を照らし、多くの冒険者たちがそれぞれの訓練に励んでいる。剣を振る者、弓を引く者、魔法の練習をしている者たちが次々と目に入ってきた。
「よし、鍛えるか」
そう言うと、訓練用の木剣を手に取る。初心者だが、昨日の訓練で剣術の感覚が分かって来たので、それを身につける事に専念する。
「まずは構え方からだ…」
木剣を構え、ゆっくりと振り下ろす。剣筋が昨日よりも少しだけスムーズになり、少し自信がわいてくる。体に染みついた鉱山での労働が、剣術の基礎にも生きているのだ。
「もっと速く、正確にだ…」
何度も何度も同じ動きを繰り返しながら、集中力を高めていく。周りの冒険者たちが訓練に没頭している様子を見て、自分も負けじと続ける。
その時、ふと耳に聞こえたのは、遠くからの笑い声。訓練場の端で、何人かの冒険者たちが話し込んでいるのが見えた。彼らはロイの姿をちらりと見ながら、何やら話しているようだ。
「また新入りか?」
「見ろよ、あの構え。全然様になってないな」
ロイはその言葉に気づいたが、顔には出さずに剣の動きを止めなかった。自分が未熟なのは分かっている。だが、それを他人に指摘されるのは決して気分の良いものではない。それでも、彼は冷静さを保ち続ける。
「どうでもいい…今は練習あるのみだ」
そう言い聞かせ、再び剣を振り下ろす。集中しているうちに、周囲の声は徐々に気にならなくなっていた。
時間が経つにつれ、動きも少しずつ洗練されていく。木剣を振り続けるうちに、腕や肩が痛みを覚え始めるが、その痛みが自身にとっては成長の証でもあった。
「これは通らないといけない道だな」
体力が限界に近づいた頃、ようやく手を止め、木剣を地面に置く。額に浮かんだ汗を手で拭きながら、大きく息を吸い込む。
「ふぅー、今日はここまでにするか」
訓練場を後にし、ロイは少し疲れた体で街の方へ向かった。街の賑わいが耳に心地よく響き、ふと空腹感が襲ってくる。
「腹減ったなぁ・・。」
街の中にある小さな食堂を見つけ、そこに入る。店内は賑やかで、冒険者や商人たちが食事を楽しんでいた。ロイもその中に入ると、店員の声が響いてくる。
「いらっしゃいませー」
「空いてる席にどうぞー」
(この席が空いてるし、ここにするか!)
「さて、何食べようかなー・・」
空いている席に座ると、メニューを見ながら、適当に注文を済ませる。運ばれてきた料理はシンプルなものだが、疲れた体には栄養が十分に行き渡る。そのまま黙々と食事を進めながら、次の行動を考えていた。
(次の依頼はどうしようか・・)
(まだFランクだし、薬草採取か、別の違うものに挑戦するかだなー)
そう思いながら、食事を終えるとギルドへ向かうことにする。銀貨7枚という大きな報酬を得たことで、少し余裕ができたので、どうするべきか少し迷いつつあった。
ギルドに到着すると、いつものように受付の女性の元へ向かう。彼女は笑顔でロイを迎え、すぐに顔を見て声をかけてきてくれる。
「お疲れさまです、ロイくん。朝は訓練に行っていたのですか?」
「お疲れ様です、そうだね」
「訓練はいかがでした?」
「疲れたけど、少しずつ慣れてきたよ。やっぱり、毎日やると違うもんだね」
彼女はうんうんと頷きながら、いくつかの依頼書を手に取った。
「次の依頼をお考えですか?今日は少し特別な依頼もありますが…」
その言葉に興味を引かれる。
「特別な依頼?どんなもの?」
彼女は少し考えながらも、手元の依頼書を見せてくれる。
「こちらは、薬草採取ではなく、簡単な物資運搬の依頼です。」
「街から少し離れた農場に荷物を運ぶだけの仕事ですが、報酬が少し高めに設定されています。」
「どうされますか?」
ロイは依頼書に目を通しながら、少し考えた。物資運搬の依頼は体力を使うが、モンスターの心配はないし、安全な依頼として知られている。
「これにするよ」
「違った仕事にも挑戦したいし、報酬も良さそう」
彼女は頷き、依頼書をロイに手渡す。
「では、こちらをお引き受けください」
「運搬の詳細は書かれていますので、気をつけて進めてくださいね」
依頼書を手にして、その場を後にすると、依頼を
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