第29話 宿屋
ロイは夕闇に包まれた街を歩きながら、ようやく「風の宿」の看板が見えてくる。体中が鉛のように重く、疲労感がじんわりと全身に染み渡っていた。訓練と薬草採取、そしてコボルトとの遭遇。今日は充実した一日だったが、やはり休息が必要だ。
「ここか…」
ギルドで紹介された格安の宿、「風の宿」。冒険者たちがよく利用する宿屋らしく、ロイのような駆け出しでも無理なく泊まれる料金だと聞いていた。扉を開け、中へと足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ」
宿屋の主人がカウンターの奥から声をかけてきた。中は静かで落ち着いた雰囲気で、木の温もりが感じられる大きな宿で、少し疲れた声で口を開いた。
「一晩泊まれる?」
主人はにっこりと笑いながら頷き、料金を伝えてきた。
「はい!お一人様、銀貨1枚です」
その言葉を聞いて安心する。まさに格安。銀貨1枚で一晩休めるのは、この街での冒険者生活を続けるために大きな助けとなる。銀貨1枚を取り出し、主人に手渡した。
「助かるよ。ありがとう」
鍵を受け取り、指定された部屋へと向かう。部屋は質素だが清潔感があり、ベッドが一つ、簡素な机と椅子が置かれているだけの空間だった。それでもロイにとっては十分すぎるほどだ。
「ようやく、休めるな…」
ベッドに腰を下ろし、全身の力が抜けていくのを感じる。足元からじわじわと広がる疲労感が、今日の出来事を思い返させる。コボルトとの戦い、そして無事に依頼を終えた安堵感が心を満たしていた。
(強くならないと・・)
ふと、シアの姿が脳裏をよぎり、その時までに自分が強くなっていなければならない。だからこそ、毎日の訓練や依頼が何よりも大切。
「今日はもう休もう…明日は銀貨7枚を受け取らないとな」
ベッドに横たわると、そのまま深い眠りに落ちていった。
翌朝、窓から差し込む朝日でロイは目を覚ました。昨日の疲れはすっかり取れており、体が軽く感じられた。彼はゆっくりとベッドから起き上がり、軽く背伸ばす。
「よし、今日も頑張るか」
身支度を整え、部屋を出ると、宿屋の主人がカウンターの奥から見送ってくる。
「ありがとうございました。またどうぞ」
ロイは軽く会釈をしながら、宿屋を後にする。街はまだ静かで、商店の店主たちが準備を始めているところだった。そんな朝の空気を感じながら、ギルドへと向かっていく。
ギルドに到着すると、昨日と同じように受付女性がカウンターに座っていた。ロイを見ると、彼女はにこやかに迎えてくれた。
「おはようございます、ロイくん。昨日はよく休めましたか?」
「うん!おかげでよく眠れたよ。体もだいぶ楽だし。」
「ところで、昨日の討伐金と謝罪金、本当にもらっていいの?」
カウンターに近づいて昨日のコボルトの件を聞くと、彼女は頷きながら、机の上に小さな袋を置いた。
「はい、こちらです」
「討伐したコボルトの確認が取れましたので、討伐金と謝罪金を合わせて銀貨7枚になります」
「ご確認ください」
そう言って、彼女は袋をロイの手に渡してくる。ロイは袋の重みを感じながら、中を確認する。銀貨7枚がきちんと揃っているのを見て、驚きと達成感が広がった。
「本当に7枚も貰っていいの?俺、ただコボルトを倒しただけだし…」
彼女は微笑みながら、ロイの言葉に首を横に振る。
「ロイくんが危険な状況でよく対処してくれたことに対しての正当な報酬です。それに、ギルドのミスでもありましたから、どうか遠慮せず受け取ってください」
「ありがとう。本当に助かるよ。これで次の依頼にも集中できる」
少し照れくさそうに礼を言うと、
彼女はロイの言葉を聞いて、安心した表情で微笑む。
「次の依頼もきっとロイくんならうまくこなせると思います。何かあればすぐにご相談くださいね」
「ありがとう」
(よし、今日は先に訓練場へ行って、それから次の依頼を考えるか・・)
ロイはギルドを後にして、外に出ると、街は少しずつ活気づいてきていた。冒険者たちがそれぞれの仕事に向かう姿が見える。銀貨7枚をポケットにしまいながら、軽く息を吸い込んだ。
「訓練場いくか!」
前日の疲れが完全に取れていることに安心しつつ、訓練場へと向かう。自分がもっと強くなるため、毎日の積み重ねが何より大事。そのために訓練場の門を目指して歩いていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます