第28話 修練

ロイは再びコボルトを倒したことで、少し自信がつく。前回の経験と奴隷の時の忍耐が役に立ち、少しずつでも成長していることを感じていた。

 薬草の採取を続けながら、依頼に記載されている目標量を集め終えるまで気を抜くことはしない。彼は慎重に周囲を確認しながら、薬草を手に取り、それをリュックサックに詰め込んだ。


「これで依頼書の量は大丈夫かな…」


 依頼書を再確認し、必要な量の薬草を集めたことを確認し、深い息を吐いた。


「よし、これでギルドに戻ろう」


 気を引き締め、再び森の中を歩き始める。コボルトとの戦いで少し疲労は感じていたが、それでも彼の足取りはしっかりしている。初めての依頼を無事に達成するという達成感が、足を進ませていた。


 森を抜け、街の見える場所まで来ると、一瞬立ち止まって周囲を見渡した。再び街の喧騒が聞こえてくると、自然と緊張が和らぎ、肩の力が抜ける。


「街に帰ってきたな…」


 ロイは小さく呟きながら、胸の中で喜びを感じる。冒険者としての一歩を踏み出した実感が、ようやく自分のものになったのだ。

 そう思いながら、街の中へと戻っていく。人々が忙しそうに行き交う中、冒険者としての誇らしさを感じていた。最初の仕事を終えたばかりだが、また次の一歩が彼を待つ。


 ギルドに戻ると、受付の女性に向かって歩き、彼女に声をかける。


「すみません。薬草採取の依頼完了しました。」


「おかえりなさい、ロイくん。無事に任務を終えたんですね?」


「うん、これで間違いないと思う」


 ロイは頷きながら、採取した薬草をカウンターに差し出す。

 彼女は薬草を確認し、依頼書と照らし合わせた後、微笑んだ。


「完璧です。初めての依頼でこれだけしっかりとした仕事ができるなんて、素晴らしいですね」


「ありがとう。正直、少し大変だったけど、何とかやり遂げたよ」


 その言葉に少し照れながらも、達成感を噛みしめる。

 彼女は優しく頷きながら、ロイに報酬の袋を手渡した。


「こちらが今回の報酬です。お疲れさまでした」


 受け取った報酬を確認し、少しの間袋を見つめた。これが自分の力で得た報酬だと思うと、感慨深かった。


「やった!初の報酬か!」


 ロイはそこで、思い出したかのようにコボルトが出現したことを受付女性に話す。


「あっそういえば、コボルトが森の中で出現したんだけど.....」

「ギルドに報告しといた方がいいよね?」


「えっ・・それは、本当ですか?!!!」

 受付女性は慌ててコボルトが出現したことを確認する。


「えっ、うん。」

「もしかして、何かまずかった?」


「いえ...ロイくんは何も問題ありません」

「こちらの落ち度です。申し訳ありません!」


 受付女性が急に謝ってくるため、ロイは慌てふためき、すぐに顔を上げるように声をかけた。

「いや、、俺は何ともなかったから」

「気にしないで顔を上げて」


 その言葉に受付女性は安心し、モンスターの説明をする。


「ありがとうございます。では、このまま今回の説明をさせて頂きます。」

「本来、薬草採取系や新マップ発見した際は、ギルドから高ランクの冒険者に現場の状況やモンスターの種類、出現した際の数などを、確認してもらう依頼書を発行するんです」


「なるほど」


「そして、高ランク冒険者の確認でき次第、薬草採取系は初心者の方や高ランクではない冒険者の方々に依頼をするシステムになっているんです」

「そのため、今回ロイくんが受けた薬草採取は、普通モンスターが出現することはないのですが、はぐれたコボルトが出て来たのかもしれません」

「また、モンスターを討伐できるのは、Eランクになってからになりますので、ロイくんに何かあった際は、問題になるところでした」


「そういうことなのか」


 受付女性の説明を受けたロイは、内容を理解して、どうしてコボルトが出現したのかがわかった。

 また、そのまま説明を再開する。


「それから、ロイくんが討伐したコボルトの遺体がその場所にあれば、ギルドから討伐金と謝罪金を合わせて、銀貨7枚をお渡しさせて頂きます」


「えっ・・そんなに貰っていいの?」


「はい!一旦こちらでCランク以上のギルド職員に確認に向かわせますので、明日に討伐金と謝罪金を受け取に来ていただけると幸いです」

「今回は、ギルドがミスを犯し、申し訳ありませんでした」


「ううん、ここまで説明して貰って・・」

「お金まで貰えるなんて、本当にありがとう!」


 受付女性の真面目な姿勢と、真摯しんしな対応を受けたロイは、とても良い受付女性に出会えたことを心の中で感謝するのだった。


 それから初めての冒険者としての仕事に、大きな満足感を得ていたが、同時に今回の事で彼の心にはさらなる強さを求める気持ちが湧き上がるのである。


「もっともっと強くなろう」


 ロイはそう自分に言い聞かせ、次の依頼に備えるために、ギルドを後にしようとした。

 しかし、その前にもう一度、受付の女性に話しかける。


「あっ、ごめん。最後にもう一つ聞きたいことあるんだ」

「さっき教えてもらった訓練場所のことなんだけど…あそこではどんな訓練ができる?」


「街の西側にある訓練場では、剣術や格闘技、魔法の基礎訓練など、様々な分野での訓練ができます。ロイくんのように、初心者の方も多く利用しているので安心ですよ」


「ありがとう!そうか…俺も行ってみようかな」


 その言葉に安心し、次に訓練に向かう決意を固めたのだ。

 彼女は微笑んで頷き、さらに付け加える。


「体力や技術を鍛えるのはもちろん大切ですが、焦らず自分のペースで成長していくことも忘れないでくださいね」


 その言葉に、再び自分を見つめ直す。今の自分はまだまだ未熟だが、確実に成長している。それを信じて前に進むことが大切だと感じていた。


「分かった。焦らず、でもしっかり前に進むよ!」


 そう言い残し、ギルドを後にし、次の目的地の訓練場に向かう。

 訓練場に到着すると、そこには多くの冒険者たちが各々の訓練に励んでいる姿が見えた。剣を振り回し、木製の人形を相手に切り込む者や、地面に魔法陣を描きながら呪文を唱える者たちが目に入る。


「ここでなら…俺も強くなれそうだな」


 ロイは自信を持ちながら、剣術の訓練エリアに向かった。彼はまず基本の構え方や、剣の振り方を学び始めようと思っているのだ。訓練用の木剣を手に取り、力強く振り下ろす。


「難しいな…」


 彼は思わずつぶやく。鉱山での労働で鍛えられた体力はあっても、剣の扱いは基本的に初心者だ。最初はぎこちなく、うまくいかなかったが、それでも諦めずに何度も繰り返す。

 そうすると、彼の手の中で木剣が徐々にしっくりと馴染んでいくのを感じた。


 訓練場の他の冒険者たちも、自分たちの訓練に集中している。彼らの姿に触発され、ロイもより一層頑張ろうという気持ちになる。


「よし!俺はやるぞー」


 汗を拭きながら、次々と繰り返す動作に集中する。剣を振り、身を低く構え、体全体を使っての動きを磨いていく。


「もっと…もっと強くなる」


 ロイは、時間が経つのも忘れ、ひたすら訓練に没頭した。彼の体は次第に疲労していったが、確かな成長を感じる。


 訓練が終わったころ、太陽はすでに傾き始め、空が夕焼け色に染まっていた。大きく息を吸い込み、疲れた体を伸ばしながら空を見上げる。


 彼の胸の中にはまだ達成感があった。しかし、不安もどこかでよぎっているのだ。果たしてこれで本当に強くなれるのかと。その後、訓練場を後にし、今日の成果と明日の事を考える。


 ロイは宿屋に向かう準備をした。

 街に戻ると、夕方の賑やかさは変わらず続いていた。冒険者たちがギルドへと戻り、仲間と話しながら次の任務について相談している姿が見える。今の自分にはまだまだ足りない部分が多いため、一歩ずつ前進するしかないと思いながら、宿屋へ向け歩いて行くのだった。


「俺も、次の依頼を受けてみようかな…」

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