第2話 登校と出会い
睡眠は5時間が平均だった俺が気づけば7時間も寝ていた。体の疲労もないはずなのに脳の疲労もないはずなのになぜかの長時間睡眠、本当ならスキルについてデバイスで詳しく知りたかったんだが。
ゆっくりと体を起こした俺は廊下から人の気配を感じる。この気配は
クチュクチュと聞こえる音、漏れる喘ぎと吐息は間違いなくアレの最中だろう。ご主人様と呼んでしまうほどに身を委ねている相手が息子であるなんて俺の母の記憶はないため正直母という者に縁はなかったが母とはきっとこういうものではない。
しばらくすると円の部屋からドタドタと音がして扉を開ける音と舌打ちの音と花音の謝る声が聞こえて、階段を慌てて降りる花音の足音が響く。俺は円がどうして母である花音に冷たく接するのか理解できたような気がする。
俺はジャージの短パンとシャツのまま顔を洗おうと部屋を出ると扉の前が少し液体が落ちていて、それが何かを考える前にUIに詳しく表示されかけたためすぐに視線を別へと向けた。
二階にある洗面台はトイレの隣にありそこでシャワーも入れる。俺は顔を洗って改めて顔を見てその頬の傷を鏡で見るとようやく違和感を感じた。
ナノマシンの体に対して古かろうと傷が治っていないのがおかしいことなのだ。つまりこの傷をナノマシンが傷だと認識していないか自動治癒が行われていないか。鏡の前においてあるハサミで指をサッと傷つけると血が滲む前にナノマシンによる治癒が完了する。
「前者ということだな……しかしこの傷、トラや豹に付けられた傷にしか見えないな」
よほど狂暴な獣のかぎ爪だ、もしかすると闘犬である可能性もあるが噛み傷には見えないからほぼ0だな。
制服は事前に母が洗濯してると円が言っていたが、どうやら2着あるのを毎日着まわしているようだ。洗面台の隣の壁にある収納のガラスをスライドして手に取ると小さな紙がヒラヒラと落ちて、地面に着く前にそれを取ると書かれている文字を読む。
「……愛してます、あなたのオナホより」
俺はどう反応するのが正解か分からないため、とりあえずそっとゴミ箱へ綺麗なまま入れておいた。
その後朝食を食べるため1階へ向かおうとすると階段の手前で円と鉢合わせて、俺の髪型を睨んでため息混じりで言う。
「お兄ちゃんはオールバックとかしないから――」
俺のセットが気に食わなかったのか、円は素早く髪の毛をセットし直すといつもの優真がしていた髪型へと変えられた。もちろんそれはセットする前とほぼ同じで彼がナチュラルで髪型を気にしていないのが伝わってきた。
朝食も無口でモクモクとテレビも付けていない。テレビは壁に掛けられたデバイスと同じような画面が空中に投影される仕組みのものだ。おそらく白い元になる映像をスクリーンとして上から別の映像を投影している仕組みだろう。
米とみそ汁と丸ごと食べれる焼き魚は艦長の時とは違って質素に感じるものがあったが美味しかった。だからだろうか何も言えないまま食べるのが少しだけ悪い気がした。だが円の言葉を信じるなら花音に優しくするとかなり調子に乗ってしまうらしいから今はこのままにするべきだろう。
どこか日本風の世界感を思わせるこの作り、過去のデータと照らし合わせることができたならここが過去であると確認が取れるかもしれない。まだ可能性の段階ではあるがアルセウスとのコンタクトを取る以外にやはり現状把握は難しそうだ。
食事を終えて玄関に向かうと円がまた声をかけてきて本物の優真の説明をし始める。
「お兄ちゃんは基本外で声をかけられることを嫌っていて、私でも声をかけるなって言われてたから、きっと声をかけてくるのは幼馴染のあの人だけ、でも私でも把握してない交友関係があるかもだけど基本的に好意的な交友関係じゃないと思うし」
「好意的でない交友関係はないのではと思うんだが」
「……お兄ちゃんはスキルのせいで孤立しがちだったし周りの人に馬鹿にされてたから」
「馬鹿にされてるのに交友関係を持つ意味が分からないんだが」
呆れた表情で円はその問いに答える。
「学生の交友関係は複雑なものなの!オジサンには分からないかもだけど!」
どうやら円の逆鱗に触れたようだった。今まで中身に関しては何も触らずだった彼女がオジサンと年齢で怒られたのは初めてだった。
円は俺、正確には優真への挨拶で頬へキスすると玄関を足早に出て行く。俺はその後を少しだけ待って扉を開けると後ろから小さい声で花音のいってらっしゃいませの声が聞こえた。
家の外の世界は少し違和感があるが宇宙に出られるほどには文明が進歩していそうだった。ただ、家の前の空に乗り物が飛んでいることはなく、自動運転の車や配達ドローンが行きかっている様子もない。
ただ妙なことに文明レベルと社会環境が矛盾していて、小学生が大勢で登校していることや、中学生と高校生が同じ方向へと登校していることも不自然だ。
何より違和感なのはこれだけ発達しているのに視界に高層ビルの一つも入らないことだった。住宅街の中だからだろうか、山も見えなければ高いビルもない、まるでここだけが何かに関連した住宅が建てられた区画だと思わせる。
これが冒険者云々と関係してるとなると想定されるべきなのは、冒険者と呼ばれる者たちが家族単位で育成されている事実だ。
ゲートなる場所へ入ることは知っているが、そこへ入りそこで獲れた資源がこの街やこの社会基盤になっていると想定するならありえることだ。
「にしても学生服姿の人間だけで数百いるのは中々にあり得ない、バスの中にも学生たちが乗っているし家から現れるのも学生、まるで大人は家の中かもしくは別の時間に出勤なりしているのだろうか」
円の話ではどうやら俺たちの家は学校まで徒歩三分らしい、遅刻することはないそうだが俺はそれよりもこのデバイスについてもう少し聞いておきたかった。
優真のデバイスを見ていて鍵付きのフォルダがあり、それを数字四桁5432で開けることに成功したものの中を見て開けたことを後悔した。
円や花音との調教日誌フォルダ、まさかそんなものを保存しているとは思わなかったため、俺はひっそりと消すことにしたが一応見ずに脳内のデータ領域に新しいフォルダを作成してそこへ突っ込んでから元のデータを削除した。
少し歩くと明らかに学校であることを主張している校門があり、次々に生徒が入って行く姿が見えバス停も百メートルは離れているのだろうか奥側からも学生の波が押し寄せている。
気づかなかったが左側が既に学校の校門と連なる壁で壁から乗り出した木が日光を遮っている。右側の車道を走る車にはちゃんと人が運転しているようでなんだか新鮮な気分にもなる。
AIが主流な世界ならここまで人が操作をすることもないから、だから逆に新しい感じがするというのも文明の差によるものだろう。
「にしてももしかしなくても中学校側が奥だから校門前ですれ違いが起きているのか」
高校の校門前を足早に歩いて通過している女子生徒や男子生徒たち、彼らも将来あの前を通り過ぎることなく入って行くようになるのだろう。
にしても彼ら彼女らが一瞥していくのは普通のことなのか?よく見ると入って行く男たちの表情もどこか期待に満ちているようだ。
そう思いながら視界に徐々に門の中が見え始めた時だ。
「!なっ!」
ビリっと体、いや脳が反応して俺は困惑した。これはきっとパルスライフルのポインターによる微電流のそれに違いない。
艦長として宇宙戦において旧宇宙文明が使うパルスライフルは標的を的に定めて引き金を引く前にポインターによる電波によってこちらの戦闘服がそれを察知して微電流を体に流す。これにより突撃艦クラスの砲だろうと小型で手持ちの携帯式の銃だろうと狙われていることを察することができる。
いやいや、パルスライフルに狙われている?そんなことがあるわけない。そもそも俺は今戦闘服も装備していないだろう。
全ての思考をリセットした結果、視界内の情報だけが全てになってようやく俺は理解することができた。
この電流のような感覚は俺ではなく優真の体が反応しているのだということ、その原因が俺の視界内でどこか懐かしさのある銀髪であることは間違いなかった。
銀髪、そしてあまりにも目立つ青色の瞳にスタイルは奇跡的なまるで宇宙のアイドルのようでどこか周囲との違いがありすぎて浮いている女性が立っている。
容姿もそうだが、俺としては彼女の頭の上にあるものに目を奪われた。俺の視界内に表示されるUIにははっきりとそれが表示されている。
【個体名アルセウス】
その文字がはっきりと強調されているのは俺にだけだろうが、昨日の騒がしさやら全てがこの瞬間になかったかのように脳がリラックスするのを感じた。
「……見た目が似ているのも関係あるのかもな」
俺は歩いて近づいていくと彼女はこちらをじっと見つめながら一度も目を外さない。
『聞こえるか?アルセウス』
その問いかけに彼女は反応しない、この現象は俺ももう理解していた。現在の俺の通信枠に彼女が登録されていないからこちらからの声が聞こえない、そして彼女の枠には俺が登録されているため彼女の声が俺へと届くんだ。
彼女にも俺の頭の上に名前が見えているのは間違いないだろうけど、それにしてもこんな目立つ場所を選ぶなんて考えがあの超科学的AIの思考から出るのは少しだけ違和感ではある。
あと二歩、それで俺と彼女の距離は触れ合えるほどだ。ただ、こんなとこで触れ合うなんてことはしないと思いたい、あいさつ程度で済ませるべきだろう。だが性技のスキル持ちである優真と彼女の接点はないだろうけど、ここまで目立つ人物となると相手が誰であれ目立つということを考えて行動するべきだな。
『見つけた――』
きっと今返事をしても仕方がない、とりあえず彼女へ登録申請を送るべきだ。
UIの中から周囲の項目を開いてアルセウスを見つけた俺は申請を送る。すると一瞬でそれを認証して俺の枠に彼女が現れてようやくこちらの声が届くようになった。
『アルセウス、俺が分かるんだな、見た目が変わってしまってはいるが』
『……艦長さんですよね』
艦長さん?
『あの、私アルセウスさんではなくて、でもアルセウスさんとは関係があって、でも私じゃ説明できないからだから今からデータを送りますね』
送られてきたデータファイルを開いて一瞥して閉じたのはそれだけで現状の説明が全て不要になったからだ。
『まさかアルセウスの意識がキミと同化しているとはな、しかも彼女は休眠状態で俺を探すように指示されていたわけだ』
『はい、私も知ってることはあまりないのですが、艦長さんのサポートをとアルセウスさんに言われています』
まさかアルセウスの意識だけが彼女に入っていて、その時にナノマシンによる強化はなく外見も変化していないらしい。元々の美貌でこれで見た目がアルセウスに近しいのにもちゃんと理由があった。
理由に関してはアルセウスから受け取ったデータが全てで、彼女はそれを知らないということも知らせてはいけないこともアルセウスからのデータにあった。
『あの、私の本当の名前だけ先に言ってもいいでしょうか』
『これから俺とキミはアルセウスの指示を遂行する仲間なんだ、俺は艦長としての名前は別にあったんだが今は優真、
俺の名前を聞いた彼女は相変わらずの綺麗な顔で
『
そうか、胸元の校章が緑だから1年生だと分かったのか。で2年になると黄色になって3年なら
俺がアルセウスから渡されたデータで知ったこの世界どこで彼女がなぜアルセウスに似ているのかを。
『一緒に厄災に立ち向かいましょうね優真さん』
厄災、この世界がゲームであると言うアルセウスの言葉通りならそれを防ぐことは今の俺には必須事項だ。
ゲームと聞かされても俺は信じ切れていないが、目の前の阿野村和香がアルセウスの元となったデザイン画の人物そのものだからで、その記録はさっきのデータの中にもはっきり記載されて写真や動画のデータも既に俺のサブフォルダに入っている。
ここがゲームの世界であることを証明する方法は少ないが、アルセウスのデータ上ではゲームとこの世界の共通率はほぼ100%だったからだ。ストーリーは既に物語の主人公たちが卒業しているらしいが、目の前にいる阿野村和香も後に彼らに合流する重要人物だということがこの設定集を見ても理解できる。
この設定集に書かれている阿野村和香のデータは今ここにいる彼女と全てが一致しているのだから疑うまでもない。
『分かった、だがまずはアルセウスの状況を共有しようか……の前にいつまでもここにいるわけにはいかないな』
『あの私のことどれくらい分かっているんでしょうか?』
設定集はいつでも見られるしすでに記憶している。つまり阿野村和香という人物に関して俺は本人よりも詳しく知ってしまった。今日彼女が付けている下着の色まで多分言い当てられる。
『アルセウスが知っている程度には知っているよ、きみが卒業生で俺たちの先輩に当たるランブルの一条先輩を好きなこととかもね』
『そ、そんなことまで!うぅ、女同士でって何を言っているんだって思いますよね?』
いや、同性同士で恋愛感情なんて別に俺はどうでもいい、むしろこれからの事を考えるとその方が安心する。
アルセウスのデータによると阿野村和香は本来ある出来事を経て主人公パーティーランブルに敵対するキャラだからだ。阿野村和香がそうなる原因が彼女が処女でなくなることであることもアルセウスのデータにあった。つまり俺は彼女のいる範囲内での性技の使用は絶対に起きてはならない出来事なのだ。
もしアルセウスの意思を抱えた阿野村和香が厄災を引き起こす側に回った時のリスクはアルセウスも懸念していた。どうして阿野村和香が処女でなくなるとそうなるのかはゲームであるこの世界のルールと俺は考えるが、アルセウスは少し違うようで阿野村和香の身体データが処女であることが重要であるとデータに記している。
『とりあえず周りの視線もあるし中へ入ろう』
『え、あ!はい!』
恥ずかしそうにする阿野村和香だけどそれは無理もないことではあった。何せ今俺たちはとても目立っている、しかも俺は円や幼馴染で彼女である
俺の恋人でも妹でもないが既に一度関係を結んだ相手にこうも睨まれるのは悲しいかな男の
――――――
教室に入ると俺が、いや優真が円の言う通りの友人も仲のいいクラスメイトもいないボッチという存在だと実感できる。
朝のことが噂になっているのに周囲は俺との距離があるせいで誰も話しかけられないでいる。俺としても今は通信で阿野村和香と会話しているから口を動かさなくていいのは都合がいい。ただ都合が悪いのはずっと睨みつけてきている幼馴染であり恋人である香織の存在だ。
どうして話しかけないかは分からないがきっと怒っているからだろう。
「どうして阿野村先輩と優真が見つめ合ってたのよ、しかも会話もせず数分見つめ合うだけなんてまるで――っく!呪う!絶対呪う!」
全部聞こえている、俺にしか聞こえないが全部口から洩れているぞ香織。
にしても、他にも聞こえてくる噂が色々あるが、俺と阿野村和香の関係性で一番有力な候補は俺が性技で彼女を襲った結果校門前で睨みつけていた、というのが有力らしいけどはっきりと訂正も肯定もされない噂はきっとどこまでも広がり続けているのだろうな。
「お前ら席付け~」
教員はやる気がない様子だ、にしても教員もああなら円の言う通りこのクラスは落ちこぼれの集まりのようだ。
学年のクラスわけはスキルの有用性と鑑定評価によって行われているらしい。例えば阿野村和香は最も有用性が高いと評価され鑑定評価もSと査定された結果クラスは特待生クラスのAクラスに入っている。
ちなみに阿野村和香のスキルは【
にしても。
『優真くんは何が好きなんですか?私はクラクラ焼きのたこ焼きとクレープなんですけど、今度食べに行きませんか?あと、今度映画に行きませんか?私まだアトランティス見てないんですよね、あ!そうだ!今度私の家で映画見ましょう!お気に入りの映画があるんですよ!』
阿野村和香が会話を止めてくれないせいで教師の話しと副音声でアルセウスの声が聞こえてる気がして違和感がある。
声までアルセウスと同じ必要があるかと言われると無い訳だが、だがアルセウスを作った本人にしか分からないことだ。
「このあとはきっとあれだ~
教員の
ざっと見た彼らのステータス、多田が持っていたファイルは彼の眼に映っていた情報から全てファイルへデータとして保存した。優真が最底辺である事実も見えてしまったがそれなりに有用な情報だった。
ちなみに香織はこのクラスの中でも有用側にいる人間でスキル【癒しの力】はその評価の基盤であり、多田の意見ではあとは容姿しかも胸が特に評価Aらしい。
スキル【癒しの力】は周囲にいる者を持続的に回復する効果を付与する。有用だが必須ではないために彼女はこのクラスにいる、あと香織をこのクラスに入れて必死になって縋り付いてくるようなら教員の中で都合がいいとも多田は書いていた。たとえデバイスにしか書かれていないことでも電子的なものに対してのナノマシンの力は圧倒している。
このクラス内どころか学校にある電子機器は既に俺のナノマシンが関与済みだ。教師がどの子とどういう関係で誰がどういうことをしているかも分かる、だがそれらの情報は俺が有利になる場面でしか使うことが無い情報だ。
「ちょっと優真」
『私これから実習服に着替えるので少し失礼しますね』
「実習服?」
「ちょ!優真!」
あまりにも急な会話に混線してしまった俺の思考はすぐに香織の眼を真っすぐ見た。
「どうしたんだ香織」
「う~どうしたじゃないよ~朝の阿野村先輩と何があったの?」
「うーん、人違いだったみたいで謝られたけど」
「本当に?」
「本当だよ」
顔の距離が近い、阿野村和香とは違う可愛さがある香織はこのクラスで一番の可愛さがあるとは思うが、幼馴染の性技持ちの優真によって高校入学前に彼氏持ちの女の子になって皆が遠くから見ているだけになっている。
そもそも性技には魅了の効果があることが一般的にも知られていて、優真が無理矢理に彼女を恋人にした――などというデマも広がっているが、円がそれを否定していたということはどうやらデマということが真実らしい。
魅了というより調教であるなら香織が優真を好きになった結果離れられなくなったと言うのが正解だろう。ただ俺には全く関係が無いと言えば無いから、これから俺にとって邪魔になると彼女への態度も大きく変わることになるだろう。
教室から実習服へ着替えるための更衣室へ向かい、制服から妙に平凡なジャージに着替えると俺はゲートがある場所である校舎の外へと移動した。
ゲートがある場所はテニスコートのような風景で金網によって隔離しているところを見ると危険度もあるようだし、そもそも俺の視界のUIには視界に入れた時からずっと危険度が振り切ってレッドに輝いている。
これはスライムや次元断層など危機的な状況にだけ赤くなる。
「女子!遅いぞ!胸を揺らすな笹塚!」
「谷崎キモ」
複数の女子からキモと言われる谷崎という男は気持ち悪い発言以外は悪くない教師だ、デバイスにも特に変なところもなく手に持っている成績関連の資料にも多田の様に気持ち悪い言葉も記入されていない。そして、誰も知らない事実としては彼の奥さんはかなりカワイイ系で婚約はお相手が小学生で彼が大学生の時にしていた、理由も小学生の奥さんが三人組に誘拐されそうになったところを単身助けに入り体を張って守ったことが婚約に繋がって去年16歳になって結婚した。
おしどり夫婦な彼の幸せが溢れてキモイ奴になっているだけだ。
本当にゲスな教師は別にいて、3年のゲートの前にいる男だが今の俺には関係ない。
「では実習を開始する、いつもの班に分かれてゲートへ入れ!」
いつもの班?優真は誰と班を組んでいたんだ?
そんな疑問は数秒で解決される。俺の隣へ香織が近づくと一緒に女子が二人寄ってくる。きっと香織の友達が彼女に頼まれて優真と組んでいるんだろう。
「優真、今日も
「ああ」
高梨リリカ、スキル【覇気】は周囲を威圧して動きを制限するもので相手の強さで効果が変わり自身の強さでは何も変化しないスキルだ。見た目は普通の女子高生だけど経験人数はかなり多いらしいとデバイスの情報から知ることができた。
「高宮くんよろしく」
「よ、よろです」
これは彼女たちも知らないことだが、スキル性技の調教欄に彼女たちの名前もありしかも今は0%だが備考の欄に性交による上昇%が140になっている。
実際にするかどうかは別としてどうやら彼女たちが優真に対して少なくとも興味程度には想っていることがこれから読み取れる。
「二人には感謝だよ、誰も優真と組んでくれなくてさ」
「いいよいいよ、私も別に組みたい人とかいないし」
「わ、私もです」
初めてのゲートへ向かう俺はアルセウスのデータを思い返して取るべき行動を考えることに集中していた。
ゲートは枠組みもないただたんに空中に浮いている水面のような見た目をしていた。垂直に漂う水面の中へと次々に入っているがゲートの数は数十あり別々の班がそれぞれ勝手に行動しているように見えた。
「いつもの18番だね」
「うん、きっと今日もミノタウロスが出てくるんじゃない?」
「う~、み、ミノタウロスは嫌いです」
どうやら常に同じゲートを使用しているようだ。そして出てくる敵も同じらしい。
アルセウスのデータではここには初級のモンスターと呼ばれる存在がいて、その中で一番注意するべき相手はミノタウロスらしいが、あのデータどおりなら歩く牛人のような容姿だ。
宇宙広しといえど牛人のような種族はいなかったから少し気味が悪いと思えてしまう。
「さぁ行くよ!優真!」
香織に腕を引かれるままにゲートの中へと入った俺は瞳を閉じることなくデータを採取し続けていた。
通過した感覚は特に違和感も嫌悪感もない。ワープとほとんど
視界内に映る景色は明らかに未開拓の土地だろう、ただ例えるなら【
UIに表示されるデータによるとこの場にある物は実体がある上に質量もあるようだ。ここがゲーム世界を模した仮想現実であることは無さそうだ。
「優真はいつものように後ろにさがっていて、私が戦うから――」
そう言った香織はその腰の杖を手に持つ、おそらくはスキルを使う時に利用する杖だろう。
「香織ちゃん!そっちにラットが!」
地を這う巨大ネズミ、それが一瞬にしてこちらへ走ってくると香織は杖を構えて戦う姿勢を取る。
「初級ロッドスキル!ストライク!」
言葉を発した瞬間に香織の体が青く光ったようにも見えた。運動神経もそこそこで腕力も通常の香織には到底出すことができない速度の振りだった。
「アレがデータにあった武器スキルか」
扱う武器によってスキルが使えるのはこの世界の常識で、初級から中級へ上がると威力や速度が向上するのだそうだ。
香織がロッドを装備していてリリカはショートランスで継美はショートダガーのようだ。武器を使い続けることでその武器のスキルを習得できるのが普通、しかし優真に関しては適正武器がなくどの武器でも熟練度が上昇せずスキルを覚えることができないらしい。
せめて武器を使えてスキルを覚えれていたら優真もこんな風にはなってはいなかっただろう。
「ツグツグ!香織のフォローを!」
「う、うん!リリカちゃん」
二人は慣れた風に動いて香織のフォローに回っている。特にリリカは覇気のスキルも使いつつかなり場を支配しているように見える。
俺に対しても個体名ラットの脅威度は低だ、この体はナノマシンにのよって強化されているからはっきりいって一般人レベルではない。
防弾防刃を肉体でできるほどの筋肉と皮膚だ、きっと殴るだけであのラットは倒せるだろう。
「初級ランススキル!スキュアー!」
「初級ダガースキル!ファング!」
スキュアー、串刺しとはそのままだな、ただ言葉を発した瞬間少しだけランスの先が硬化と鋭くなっている。データで常に見ている俺以外には青く光った程度にしか感じないだろうな。
ファングは牙の意味だろう、その意味通り青い軌跡がまるで獣の牙のようだった。それらにやられたラットは綺麗に消え去ってアイテムを落とすとその場から血も消え失せる。落としたのは尻尾、この辺はどうやらゲームらしさだろう。
にしてもこの実習服は女子には少し露出が控えめでいいとは思っていたんだが、動くたびに体のラインが強調されるのは男には中々に性欲に響くものがある。
標準体型のリリカはチラチラとブラが見えるし、小柄で胸も平均以上の継美も胸が揺れているしブラも見えるしズボンに下着のラインがはっきりと見えてしまっている。
香織は見続けると童貞なら興奮必須だろう。ただ俺の眼は特殊なため見ようと思えば服を透過するぐらい可能であるがゆえにこの程度のエロスには反応はしない。
「それにしてもリリカはティーバックかまさか穿いてないなんてことはないだろうしな、いや、確かめてみるのも機能の確認として――」
そうして透過の機能を使った俺の視界には確かにTがあることを確認できた。
「余裕だったね」
「まぁラットだしね、4回目だし」
「で、ですね」
後ろでいる俺は周囲の脅威度が消えたことを確認すると三人へと近づいた。
「優真、今日も完璧だったでしょ」
「ああ、いつも通り完璧だった」
俺の返しに少し間をおいて香織は言う。
「なんか素直な優真めずらしいよね、でも、そっちのがいいかも」
「そ、そうかな」
うっいつもの優真がここで言うセリフなんてアルセウスからもらったデータにはないぞ。
「い、いつもなら、俺が戦えたらな、って落ち込んじゃいますもんね」
「たしかに!いつもの高宮くんならそう言うよね~なんか心境の変化とかあった?童貞は元々違うだろうし、もしかして別の女とか?」
「ちょっと高梨さん!」
「冗談冗談、でも今どきセフレとか普通でしょ?私なんて兄貴と同じ大学に7人はいるよ?」
このゲーム世界は別にR指定もなかったはずだが、もしかするとそっちのルートがあるとか?
「高梨さんが貞操観念ぶっ壊れなだけだって、優真は私以外には一人だけやってそうな相手がいるけどそれ以上はいないよ」
「へ~香織は浮気オッケー派?だったら優真くん貸してよ~性技にちょっと興味あるだよね~」
「な!だ、ダメだよ!優真の性技は魅了効果があるから好きな人以外とするのはだめ!」
「ふ~ん、それってどれくらいの魅了?ツグツグの魅了くらい?」
「う~んきっと優真以外を愛することができなくなるくらいかな、たぶん生涯離れられなくなるかも」
この話を聞いている俺はどうしたらいいのか、いや継美と一緒に今は黙っておくか。
「好きならいいんだ」
ボソッと聞こえた継美の声は俺にしか聞こえていない、その視線がチラチラとこちらへ向けられているのも俺しか知らないことだろう。
もしかしなくても優真は継美を前から誘ったりしていたのか?だが性技のスキルの調教の欄には0%と記載されている。これは好感度が関与していないことの証明かもしれないな。
「要するに優真くんとしちゃうと優真くんに夢中になっちゃうのか~」
リリカのその表情は興味ではなくもう好奇心で満ちている様子だった。
「もう、この辺にして先進もうよ、さっさとミノタウロス退治しちゃお」
「は~い」
「は、はい!」
促されて進みだした俺たちはそれからも数体ラットを倒し、最奥であろう玉座のある広場へと出た。
崩壊した玉座に座るミノタウロス、広間の剣戟の痕はきっとこれまでここで戦った生徒たちのものだろう。
ラットとは比べ物にならない強さだろう気配がそう感じさせる。
「さ!戦うよ!」
「よし!」
「は、はい!」
三人は目の前の玉座のミノタウロスと戦うつもりのようだ。だが、俺の視界には危険度が二つ表示されている。
「香織」
「なに!優真!私これからこいつと戦うんだけど――」
俺の方へ視線を向けた香織はそれを見て慌てた様子で声に出す。
「え!?み、ミノタウロスがもう一体!」
「は?!」
「な、なんで?!」
理解できないのはいつもと状況が違うからだろう。香織もリリカも継美も動揺している、つまり二体いることに対して勝てる想定がされていないということだ。
「ど、どうしますか?」
「座っているミノタウロスがアクティブになる前に後ろのをやろう」
「う、嘘でしょ!座ってるミノが動き出したよ!」
こうなっては仕方がない、このまま二匹を相手にさせることは無理だと判断する。
「香織、一体なら確実に勝てるんだな?」
「え、ええいつも通りだからちょっと時間がかかるけど一体なら」
俺は迷うことなく後ろのミノタウロス、実在した――いやゲームだから実在しているわけではないのか、とにかく牛頭のこいつを引き付ける必要がある。
「俺が一体を引き付けている間に倒すことはできるか?」
「む、無理だよ!この部屋に入ったら倒すまで出られないし!逃げ場のない場所で優真一人でミノタウロスを相手するなんて!」
たしかに、本物の優真なら無理だと思っても仕方がない。だが、今ここにいるのは中身は本物ではないが体は本物だ。
この体が彼女を彼女たちをこの場で助けたいという想いを抱いている。
「香織」
「優真――」
「ここは俺に任せて目の前のミノタウロスに集中してくれ」
「任せてって言ったって」
言葉では信用させられないだろう、だからミノタウロスには悪いが一発だけ力を込めたパンチを出してもらうか。
「ブモォオオオ!」
まるで豚のそれだな。
ミノタウロスは俺が前に出ると声を上げて広間の中へと二足歩行で駆けだした。その足が古びた床にひび割れを作りながら駆けてくると、全体重と加速を込めた右手を素早く振りぬいた。
常人には避けることはできないだろうそれを俺は思考加速無しで目で追う。体をその拳が触れないように傾けると空気を殴りつけた拳が風を切る音を出して停止する。
「よ、避けた?」
「何今の!ミノタウロスのあのパンチを避けたの!すご!」
「ま、まったく見えませんでした」
俺にこいつの攻撃は当たらない、だから――
「香織、俺を信じてくれ」
「優真――」
ここでミノタウロスを倒す選択もできるが、できれば俺が強いということを今は誤魔化したい。
そんなことを考えているとミノタウロスは俺を掴もうとするが、俺は既にそこにはいないわけだ。
「みんな――」
「うん!」
「はい!」
香織はロッドを構えると壊れた玉座の傍にいたミノタウロスが咆哮する。
ただうるさいだけのそれに三人は怯えている様子はない。あとは彼女らに任せて俺は少しだけ鬼ごっこといくか。
「さぁ牛頭、これから少しだけ遊ぼうじゃないか」
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