第2話 一足遅い春の訪れ
先輩が卒業してから、俺はずっと一人で将棋部の活動を続けていた。部室にいると、何をしても自由であり、かつ一人の時間が増える分、これから何をしようかと考えるようになり、充実感が生まれた。しかし、新入部員はゼロ。二週間が経っても、何も変わらないと思っていた。
そんなある日、部室のドアが静かに開いた。入ってきたのは、知らない顔だった。そしていきなり荷物を置き、俺の向いのパイプ椅子に座った。立ち振る舞いから一年生にも見えた。
「こんにちは、将棋部ってここで合ってますか?」
少し緊張したような表情で話しかけてきた。
「ああ、そうだけど…どうかした?」
俺は驚いて、少し戸惑いながら返事をした。
「新しく将棋部に入部した渋谷と言います。一年生です。よろしくお願いします。」
入部・・・?正直、俺は驚いた。まさかこのタイミングで部員が来るとは思っていなかった。どうやら運動部から転部してきたらしい。高校の運動部はなかなか忙しいし、それに比べて将棋部は週三回、大会前に週五日という、現代風に言うとワークライフバランスってやつだ。
「もちろん、どうぞ。部は俺一人しかいないんだけど、それでも良ければ。」
「ありがとうございます。」
渋谷はそう言って、軽く会釈した。見るからに将棋の経験はあまりないようだったが、興味を持ってくれるだけでも十分だと思った。
「将棋はやったことある?」
俺は駒を並べながら聞いた。
「いえ、将棋はやったことがありません。ただ、チェスは少しできるので、似ている部分もあるかと思って・・・。」
渋谷は少し照れくさそうに答えた。
(よかった、数年前に父親のパソコンでチェスで遊んでいたことがあるからルールはなんとなく分かるし、上手く教えられそうだ。)
「チェスか・・・そうだね、似ている部分もあるけど、違うところも多いよ。まあ、ゆっくり覚えていけばいいさ。」
俺は軽く笑って返した。初心者でも、入部してくれるだけでありがたい。何より、一緒に指す相手ができたことが嬉しかった。
それから、俺たちは活動日は毎日放課後、部室に集まり、静かに将棋を指した。渋谷は真剣に本を読みつつ駒の動きを学び、次第にコツを掴んでいった。彼の上達は早く、やはり運動部で培った集中力があるのかもしれない。まぁ、二週間しかいなかったけど・・・。
「先輩、次はどうやって攻めればいいですか?」
渋谷が丁寧に尋ねてくる。
「うーん、今のところは守りに徹した方がいいかもしれないね。相手の動きをじっくり観察するんだ。」
俺はアドバイスをしながら、彼の成長を感じていた。二人で過ごす部室は、一人の時とは違う温かさがあった。先輩が抜けた後の静寂が嘘のように、日々の活動に少しずつ活気が戻ってきた。
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