将棋部、最後の一手に賭ける!

にゃーQ

第1話 部員は俺一人

 先輩が引退した春、俺は将棋部唯一の部員となった。将棋部の部室に足を運ぶたびに、誰もいない静けさが心に重くのしかかる。


 二年生になって初めての部員勧誘。先輩たちは積極的な勧誘は行わず、そのせいか新一年生はうちの部活に見向きもしなかった。しかし、奇跡的に男子生徒が一人うちの部に興味を示してしていた。彼は将棋部か吹奏楽部で悩んでいたらしい。だが、彼は吹奏楽部を選んだ。それもそうだ、楽器を演奏する機会はこれで最後かもしれない。それに将棋なんていつでも指せる。


 結果、新入部員は誰一人来なかった。部登録のための部集会は特に何も起こらず、ただの形式的なもので終わった。しかも、先輩たちは一人になる俺に最後の言葉を残さず、無言のまま去ってしまった。


「新入部員ゼロ」という現実を受け入れるのに時間がかかった。ついこの間まで、賑やかだった先輩たちとの時間が、今では遠い昔のように感じられる。


 とはいえ、一つだけ言っておかなければならないことがある。正確に言うと、俺は完全に一人ではなかった。実際には幽霊部員が二人いた。うちの学校では、全員が何らかの部活動に所属しなければならない。だからやる気のない生徒たちは、いくつかの「楽な部活」に集まる。特に人気なのは茶華道部、科学部、そして将棋部。そう、幽霊部員たちはただそのルールに従って将棋部を選んだだけだった。


 俺が将棋部に入った理由は、正直に言うと特別なものではなかった。占いの本で「ラッキーアイテムは木」と書かれていたからだ。科学部と将棋部のどちらに入ろうか悩んでいた俺にとって、この占いが決め手になった。だけど、部に入った後、気づけば将棋にのめり込んでいた。先輩たちの熱心な指導と、駒を動かす瞬間の緊張感、それが何よりも刺激的だったのだ。


 しかし、今の将棋部はそんな熱意を持った人たちが集まる場所ではなくなってしまった。少なくとも、俺一人ではそんな部にはなり得ない。授業が終わると、部室に向かい、独り黙々と盤に向かう日々ーーではなく、指す相手がいないため先輩が置いていった漫画に目を通す日々であった。主人公が一年以内にロックバンドで成功しなければ人生が終わるという物語。俺の現状と重なり合う部分も多い。その主人公のように、俺も一年以内に新しい活動部員を集めなければ将棋部は廃部になる運命だ。


 だが、春の新歓期が終わっても、新入部員は現れなかった。このままでは、将棋部そのものが廃部になってしまうという危機感が日に日に強まっていた。それでも僕は、わずかな希望を捨てきれず、部室に通い続けた。いつか誰かがこのドアを開けてくれる、そんな淡い期待を胸に抱きながら。


 二週間が過ぎた頃、ついにその日が訪れた。

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