第3話 運命の岐路
渋谷との活動にも慣れてきた。渋谷の将棋の腕前は日に日に成長し、大会にも出場した。将棋を指すだけでなく、部室の掃除や部活動紹介の動画撮影を行ったり、時には渋谷が知り合いを連れてきて一緒にトランプやジェンガで遊んだりもしていた。
そんなこんなで、あれから一年が経ち、春が来た。俺は三年生、渋谷は二年生に進級した。それと同時に、新入部員を獲得しなければならない時期でもある。三年生の俺が引退すれば、渋谷が一人で部を引き継ぐことになる。俺の場合は渋谷が入部してくれたから良かったが、一年間ずっと一人で活動するのは、やはり寂しいはずだ。
俺たちは新入生に向けた部活動紹介でどうアピールするかを話し合った。部活動紹介の持ち時間は一部活につき二分。この二分が、将棋部の未来を左右する。
「二分となると活動内容の紹介がメインとなるな。最初の一分で渋谷が活動内容の紹介、残りの一分で俺が掴みを担当する。」
「はい、分かりました。」
その後、二人でリハーサルを重ね、準備は万全だ。そして本番がやってきた。
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部活動紹介当日、将棋部の紹介の番が回ってきた。会場の体育館は新入生で埋め尽くされている。二年前、自分もこの場で先輩たちの話を聞いていたが、今度は話す側になっているのがなんとも感慨深い。渋谷が活動内容を説明している間、俺は自分の番に備えて心の中で内容を再確認した。そして、渋谷からマイクが手渡された。リハーサル通り渋谷は活動内容を詳細に説明した。そして渋谷が握っていたマイクが俺の手元に渡ってきた。
「皆さん、ご入学おめでとうございます。ところで、将棋をこれまでにやったことのある方は挙手をしていただいてもよろしいですか?」
と、まず部長の挨拶と質問から入った。大体三割ほどが挙手をしてくれた。そして時間はないのですぐに注目を引くようなことを言った。
「将棋部は四階で活動しており、一年生の教室からはだいぶ離れておりますが、3年間通えば足腰は鍛えられると思います。」
すると体育館の隅の方に立っていた先生がくすっと笑った。
(よし、手応えあり。この調子だ!)
「活動人数が現在二人しかいません。存続の危機です。ぜひ皆さんの入部お待ちしております。ありがとうございました。」
礼と共に拍手が湧き上がった。なんとかやりきった。あとは新入部員が入ってくれるのを祈るばかりだ。
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部活動紹介の翌日。俺と渋谷はいつも通り部室で盤を並べ、新入生が来るのを待った。ビラ配りはせず、部室を訪れた新入生を歓迎する形を取ることにした。
しかし、数十分経っても誰も来る気配がない。このままでは去年と同じようになってしまう。そんな不安がよぎる中、ドアが「ガチャ」と音を立てて開き、数人の女子生徒が入ってきた。
「失礼します。」
新入生たちの声に、俺は思わずほっとした。
彼女たちを迎え入れ、軽い雑談を交えながら雰囲気を和ませた。将棋の経験を尋ねると、一人は経験者で、他の二人は未経験だという。さらに詳しく聞くと、未経験のうち一人は吹奏楽部と将棋部で迷っており、もう一人は吹奏楽部に入部する予定で、付き添いで来ただけとのことだった。彼女たちの気持ちは理解できる。四階の隅でひっそりと活動している部室を、女子一人で訪れるのは勇気が要るだろう。
経験者の子は渋谷と対局し、未経験の子には俺が駒の動かし方を教えた。付き添いの子は見学のみだったが、もう一人には一対一で丁寧に教えた。駒の動かし方を本を使って説明し、実際に動かしてもらった。もちろん、俺は攻めずに、ちょうどいい感じで負けるようにした。
時間は経ち、俺は対局を終え、渋谷と彼女の対局を観させてもらった。すると、既に試合は終わっており、渋谷の完敗であった。盤面を見ると、相手の指し手が非常に筋が通っていて驚いた。新入部員でここまで強い子がいるとは思わなかった。そしてその勢いで彼女に一言伝えた。
「多分これくらい強いと県大会は優勝できるよ。」
それを聞いて彼女は驚いた。
「へっ、本当ですか!?」
これは嘘ではなく俺は本当に彼女なら優勝できると確信した。先輩で女子の部で全国大会に出場していた方がおり対戦したことがあるが、俺は全勝している。この俺と何十回と対戦してきた渋谷に圧勝できるのであれば間違いない。
そして俺たちは入部に迷っている子の相談にも乗った。彼女も相当悩んでおり、つい一年生の頃の俺を思い出してしまった。しかし、悩み方はこれは特殊である。うちの学校は吹奏楽部の強豪校らしく、吹部に入部するためにこの学校を選ぶ子も少なくないらしい。しかし、下校は夜の七時を超えると聞いたことがあり、下校時間が遅くなるうえ、楽器も自分で買わなければならないらしい。彼女が悩むのも当然だ。
そこで頼りにならいかもしれないが、俺は彼女にこう伝えた。
「自分が本当にやりたいと思う方に入るのが一番だよ。」
果たしてこの言葉が彼女の心に響いたのかは分からないが、その後彼女がうちの部に入ることはなかったが、俺はこれで良かったと思う。彼女に後悔はしてほしくなかった。
こうして俺たち将棋部は、新たな部員を一人獲得することができた。
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