第30話 お茶を用意してくれる友がいるので

「シャル?」


 困惑した顔の兄の顔を見つめながら私は息を大きく吸う。

 

「あんな怪我なんで隠したの! なんで、悪化するまで放っておくの! ……なんで、話してくれなかったの?」

「ごめん」

 

 しょんぼりと謝罪を口にする兄。今はまだ謝罪を受け入れるときじゃない。

 

 「質問に答えて!」

 

 そう畳みかけると、兄は口をつぐむ。何かを考えるように目をつむった。

 

「……心配かけたくなかった。シャルが、悲しむ顔を、見たくなかったんだ」

「私、大泣きしたのよ。意識のない兄さまの横で」

「私の身勝手だ。……シャルを悲しませてしまった」

「そう、身勝手! 兄さまは私を優先しすぎるの! 怪我をしたときくらい私を一番にするのやめて!」

「いや、でも。私はシャルが一番、それは変えられないよ……」

 

「違う! 兄さまが私を大事なのと同じくらい、私も兄さまが大事なの! 私が怪我隠してたらどう思う!?」

 

 そこまで言い切ると、兄の目が大きく見開かれた。

 少し考えているようで、だんだんと目が潤み始めている。


「……それは、とても悲しい」

「でしょ? 私の気持ちわかった?」


 何度も頷く兄を見て私はやっと椅子に腰かけた。


「シャーロット。本当に、すまなかった。もうこういうことはしない」

「えぇ。絶対にしないでね」


 私の気持ちを吐き出したら、謝罪はすんなり受け入れることができた。

 後ろに控えてくれていたレイが隣に来て肩に手を置く。


「言いたいこと全部言えたか?」


 レイを先に行かせて残ったこととか、まだいろいろ言いたいことはあるがきりがない。

 それは言わなくていいかと思っていると、兄がでも、と口を開く。


「シャルも、襲撃者に睡眠薬のませるみたいなのは危なすぎるから、やめてほしい」

「兄さまもレイを先に行かせて残ったじゃない。あれは危ないことじゃないの?」

「それとこれとは話が」

「同じでしょ?」


 これに関しては譲れない。私が唇を尖らせると、兄は困ったように眉を八の字にする。

 互いに譲れないらしい。

 

 膠着状態になった私たちの横でレイがケーキを準備し始めた。


「それ、喧嘩が終わったらって言ってなかった?」


 そう聞くと、レイは今がちょうどいい、と言いながら紅茶をカップに注いだ。


「お互い様で終わらせたほうがいいこともあるだろ」

 

 レイは怪訝な顔を作って話を続ける。

 

「このままだと、オレにとばっちりが来る」


 兄と二人、顔を見合わせる。

 兄を置いて、一人で先に屋敷へ走ったレイも十分危ないことをしていた。

 だから、私はこれが終わったらレイにも文句を言おうと思っていたのだ。


 見透かされていたようで面白くない。


 どうやらそれは兄も同じようだった。

 向かいに座る兄のいたずらがバレたと言いたそうな顔を見て、思わず笑った。


「……デイビットもシャーロットもはそういうところあるよな」

 

 兄妹なんだよ。結局。レイがそう言ってため息をついている。

 

 どういうところだろう。そう思っているとレイがまたため息をつく。


「まったく同じ顔してる」


 その言葉に、兄がこちらを見て、すぐに文句のありそうな顔をしてレイのほうを向く。


「シャルのほうがかわいいだろう!」

「当たり前のことを言うな!」


 兄がレイに、当たり前のことでも言葉にしなくては、だとか、お前は言葉にしなさすぎる、だとか言っている。

 正直、同じことを兄にも言ってやりたいなと思いながら、兄とレイが楽しそうに言い争っているのを見ながら紅茶を飲んだ。


 レイは紅茶をいれるのもとても上手だ。

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