第23話 妹が祖父と散歩しているので Side:David
「大変だったようだな!」
目の前で豪快に笑うのは、トリトニアの王子、グレン。
お前がいなければもう少し楽だった。そう思いながら笑顔を作る。
シャルは祖父を連れて庭に散歩に出た。
その間、私と部屋で話でもしよう。そう言ってグレンを二人から離したのは私だった。
祖父はただ一人の孫娘であるシャルを溺愛しているから、二人で話すちょうどいい機会だろうと思ったのだが、私の労力は全く度外視だった。グレンの相手は骨が折れる。
「しかも、元王子? だったか、彼も行方不明なんだろう?」
「……さぁ、私の耳には」
言えるわけがないだろう。そう思いながら流す。
「そうか、言えないことも多いよなぁ。しかし、大きな怪我がないようでよかった。こうしてあえてほっとしたよ」
本当に、こいつのめんどくささはサラ嬢以上だ。サラ嬢ならシャルのことになればある程度協力関係が築けるが、こいつとは無理だ。「お気遣いありがとうございます」
グレンの付き人が同席している手前、丁寧に返事をするとグレンに笑われた。ムッとしてグレンを見ると片手をあげて謝罪の意を示しながら、やはり顔が笑っている。
「いつも通りで大丈夫だ。彼らも
「父に?」
「聞いてなかったか?
「あぁ……そう言うことか」
父が、母を連れてトリトニア帰ってからしばらくして仕事が決まったから安心しろ、しばらくはそちらに行けないだろうから諸々任せた、と手紙があった。
多くを語らなかったのは私の仕事と父の職場、双方のためか。
――知っていただろう。
そう思ってレイへ視線を向けると、オレが言えるわけないだろうと顔に書いてある。
「ディレイン外交官を責めるな」
レイの顔が見えていないグレンにまで言われて文句を言うのは諦めた。
「……わかった。これ以上、父の立場を調べることもしないさ」
もうなにも言わなくて良いと付け加えた私の返事にグレンは満足気に頷く。
「そういえば、ディレイン外交官のお父上からの伝言だ。くれぐれもタイミングはしっかりと見極めてくれ、だそうだ。随分信頼されているな」
「心得ております、と言っておいてくれ。にしても、王子を伝書鳩にするとは、ディレイン侯爵は随分、剛胆だな」
「あぁ、いつも厳しく指摘を受けている」
レイの父の顔を思い出す。幼いころよく私の父へのいたずらの片棒を担がされた。
私のからかい癖はレイの父から教わったと言っても過言ではないかもしれない。
「……父が申し訳ありません」
グレンの後ろに控えたレイが苦い顔をする。
「よい。財務大臣が久しぶりに大笑いしていた。わざわざデイヴィットの手紙の内容を教えに言った甲斐があったさ!」
違った。
からかい癖はトリトニア王家の血かもしれない。
レイの眉間のしわが濃くなり、私への眼光が鋭くなる。
私でもそこまではしない。確かに、グレンへの事務連絡を兼ねてレイの奥手っぷりと私の行動を書いた手紙を送った。しかし、私も例の父親に見せるとは思っていない。
少し動揺して、手紙の内容を思い出す。
そこまで大したことは書いてないなと思い至り、それならいいかと冷静になった。
「大丈夫だ。レイ。半年前にシャルへと買ったアクセサリーをいまだ渡せてないことを私にネタにされているくらいしか書いていない」
「十分だ!」
思わず口を出た様子のレイにグレンと二人で笑いをこらえる。
腹筋あたりに力を入れて何とか耐えた。
しかし、一瞬、表情が固まった私をレイは見逃さなかった。
「……グレン殿下」
「ん? なんだ」
グレンがレイの方を向く。
私ではなく、グレンに声をかけるのはずるい。
レイをじっと見つめる。この後どうせ叱られるのだから、今はやめてほしい。
そう念を送る。しばらく見つめあっていると、レイは目をゆっくり閉じて息を吐いた。
「失礼しました。勘違いだったようです」
「そうか」
グレンの視線が私に戻る。
部屋がノックされ、応じると執事長が入ってきた。
「シャーロットお嬢様がお戻りになりました。お食事の準備も整っております」
祖父とシャルが散歩から帰ってきたらしい。
この後は食堂で昼食だ。
「わかった。グレン、案内する」
私がそう言って立ちあがると、その様子を見たグレンは私の右わき腹を指さした。
「それ、シャルと
あぁ、本当にこいつのこういうところが嫌だ。
「わかっている」
そう答えると、強がりは男の特権だなと笑われた。本当に腹立たしい。
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