第24話 私を連れて帰りたい祖父がいるので

 昼食会は久しぶりにリラックスできる会食だった。

 トリトニアの要人とはいえ、親戚しかいないのだから、当たり前と言えば当たり前だ。

 兄がラクシフォリア家当主として挨拶をしている時ですら、和やかな雰囲気、もっと言えば子供の発表会を見に来たかのような顔をしている祖父とその横に真面目な顔を作ろうとしてる再従兄弟はとこというなんとも言えない構図になったいた。

 

 兄の精神を削りながら開始した昼食会は、トリトニアにいる父と母を含めた親族たちの近況に始まり、各国の経済状況、果ては最近パラディオの社交界で流行の兆しを見せているレースと話は多岐に及んだ。

 

「婚約破棄の件は残念だったね」

「気にしていませんわ」


 会話の途切れたタイミングで、そう言われ思わず即答する。

 祖父は目を丸くしてこちらを見ていた。

 傷つけまいと、様子をうかがいながら慎重に言葉を選んでくれていたようだった。


「シャルは、ずいぶんと強くなっていたようだ」


 祖父の言葉に兄が満足そうに頷いている。

 

「そうでしょうか?」

「あぁ、本当に大きくなった。いつもデーブやレイくんの後ろに隠れていたと言うのに」

 

 祖父は嬉しそうに何度も頷きながら私を見つめる。

 

「いつのお話でしょう」


 あまりにも幼いころの話を持ち出され、つい笑ってしまう。

 

「私にとっては、つい最近のことさ。デーブもそうかもしれないがね」

「えぇ、いつもの後ろをついてきていました。レイではなく、の」


 兄が“私”強調して言うものだから、グレンが腹を抱えて笑っている。


「俺の後ろもついて回っていただろう」

「グレン兄さまにはついていってないわ」


 グレンが思い出したように乗っかってくるが、記憶にない。幼いころのグレンは活発すぎてついていけなかったのだ。


「そうだったか? 一緒に木の実をとろうと木登りをして落ちかけただろう?」

「それは兄さまよ」


 トリトニアへ遊びに行ったときの思い出話に花が咲く。

 尽きない話題と過ぎていく時間。会の終わりが見えてくるころに、グレンが念のために聞いておく、と切り出した。

 

「シャーロット。今回の件、我々の手伝いはいるかい?」


 グレンの言葉に背筋が伸びた。兄も顔つきが変わっている。

 今、グレンはトリトニアの王位継承権第二位としての立場で、王弟の直系の娘である私の答えを待っている。

 考えるまでもなく、答えは決まっているのだが。


「いえ、お心だけで十分ですわ」

「……デイヴィットもか」

「えぇ、シャーロットの意志を支持します」


 私たちの言葉にグレンは納得したように頷いた。その隣では祖父が少し残念そうにしていた。


「……しょうがない。何かあったらすぐに言うんだよ」


 祖父は私にトリトニアへ来てほしいのだろう。グレンの申し出を受ければ、私はトリトニアの王族に連なる令嬢として婚約者を探すことになるから。

 私としてはトリトニアの貴族へ嫁ぐことも考えていないわけではないが、今はまだ決めるときではないと思っている。いい相手がいれば、という域を出ないし、まだ探してもいない。


「えぇ、おじい様。頼りにしていますわ」

 

 微妙な顔をした兄のじっとりとした視線を感じる。

 そして、ほかの外交官たちと並んで座っているレイが少し浮かない顔をしているのが気になった。

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