井波浜区心霊屋敷事件―前編
白、純白、真っ白。私の視界にはそれしか映らない。
右も左も白、しろ、まっしろ。こんな場所に放り込まれては前後、左右、上下、
まずいまずい。このままでは事故ってしまう、私は慌てて霊視を切る。
すると私の視界には車が行き交う道路が飛び込んでくる。そしてセンターライン際に対向車。
「危なっ」
急ハンドル。
少し走って、ほっと胸を
ちょうどいい、
夏の夕暮れに似合わない蒸し暑さ。外気温三十一度、湿度七十四パーセント。
ああ、世界がもう少し涼しかったころが懐かしい。まあ大丈夫か、すぐにヒヤッとすることになるだろうから。
私はスマートフォンを取り出して地図アプリを開く。目的地は
準備は万全。私は軽乗用車のトランクを開けて、茶色のボストンバッグを開ける。
中から出てくるのは清めの塩、ろうそく、お札、数珠、水晶、護符、
まるでお坊さんか何かのようですって? もしくはネット掲示板の霊能力者とか。
そう、何を隠そう私は
今日は
滝塚市は
替わりに妖怪が出るという噂がありますね。そっちは私の専門じゃないから別の人たちにお任せお任せ。
一応コンビニで飲み物を補充。今はごくフツーの服を着ているから怪しまれることもなし。運転席のドアを開けて、まだ冷気の残る車内へGO。
スクリューキャップを開けると二酸化炭素がはじける音がする。炭酸って言った方がさわやかかな? まあでも水素の音が聞こえるとか言ってた
過度な甘みを
ああ、二十一の乙女が出していい音じゃないよねぇ。いや、いくつになっても同じような音が出ると思うんだけど。
私はドリンクホルダーにペットボトルを置き、エンジンをかけた。そのまま左右を確認し、ゆっくりと国道に出る。この時間帯は交通量が少なくて助かる。さっきみたいになるとかなわないから、霊視はなし。
ドライブの最中、私は頭の中で目的をおさらいする。
民家にとりついた悪霊退治。報酬は前金五百万円と出来高。最高で合計一千万円。うーん、明らかに怪しい依頼だぁ。テンション上がってきたなぁ。
あ、でも確定申告時に結構持ってかれちゃうな。売上一千万円だけど経費がそこまでかかってないから、所得は割と多めになっちゃうんだよね。それでも
事のあらましは一週間前。SNSのDMに依頼が送られてきたのがきっかけ。依頼主は滝塚市在住の、えーと、仮にAさんとしよう。守秘義務には違反してないよー、大丈夫だよー。
Aさんいわく、数年前に井波浜区の丘の上に住宅を購入したのだが、ポルターガイストやらすすり泣きの声やら金縛りやらで住むことができなくなり、昨年家を手放したそう。
現在は滝塚市を離れ、隣県にアパートを借りているそうな。ご家族もいらっしゃるみたいで、なんだかんだ苦労なされているらしい。
ところがやっぱり住み慣れた地元が恋しいらしく、何とかして家を取り戻せないかとネットの海をさまよって見つけたのが私だった、ってわけ。
悪徳業者にも騙されたみたい。そちらの方は
というわけで、私は怪しい依頼文とは
一応依頼主さんとは事前に顔合わせをして、正式な契約書を交わしていますよ。前金が全て現金だったのはびっくりしたけど。
などと考えていたら、ナビゲーションを無視して目的地を通り過ぎようとしていた。いけないいけない。対向車がいないことを確認し、私は丘へ続く道に向かう。
そして、私は目的地付近の空き地に車を止めたのだった。
――続く
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