第4話
「うーん、明日のために今日は早く寝るか」
俺は明日の小鳥遊累魔力覚醒イベントのため早めに寝た。
毎日目が枯れるまで魔法に関する本を読んでいたが、今日ばかりはそれをやめてすぐに本を閉じて、小さい電灯の光を消す。
そして次の日、いつも通り家の扉を開けるとまたまたいつも通り小鳥遊兄弟が立っていた。
「やぁ神宮寺」
「はっ揃いもそろってご苦労なこった」
「おはようございます、神宮寺先輩」
「………おう」
美音ちゃんが柔らかな笑みであいさつをしてくれた。え、なに、うれしいんだけど!
「じゃっ、いこうぜ」
「ちっお前が仕切るなぁ!」
「ドードー」
「俺は馬じゃねぇ!殺すぞ!」
と、いつも通りのド付き合いをしてから俺達は一緒に学校に向かう。
「兄さん、流石に神宮寺先輩をいじりすぎじゃありませんか?」
「え、そう?むーそうかごめんな気を悪くしてたら謝るよ」
「あぁ?この俺がそんな程度で傷つくと思ったのか?」
美音ちゃんがとがめるように目を細めて自らの兄の方を見る。
だが心配せずともこの程度のいじりなどへでもない。なんたってこの100倍はつらい視線をいつもクラスメイトに浴びせられているんだからな。
「へってめーら兄弟が俺のことを心配すんじゃねーよ、俺は神宮寺郎だ」
「そうなのか、じゃあ変わらずいじり続けるけどいいのか?」
「はっあんなものいじりのうちにも入らんわ」
「そっか、じゃこれからもよろしくな」
「はっ、カスがっ」
そういって小鳥遊累は屈託のない笑みを浮かべた。………うん、こいつが主人公になるのも納得の笑顔だ。男の俺でも惚れそうになってしまう。
「………なんか校門前が騒がしいですね」
すると美音ちゃんが物珍しそうに視線を校門に向けている。
ざわざわとしている校門前、なぜだか今日はいつもの倍以上人が固まっているようだった。何があったのか、男どもの奇声が多い気がする。
「すげー美人!ねぇ君名前なんて言うの?てかそれ青山女子学院の制服だよね?」
「………あなたに言う必要がある?」
「誰待ち?もしかしてこの、おんれっ?」
「あなたではないわ、勘違いしないで」
「うるせーよお前、そんなわけないだろ」
「僕だよね!僕のことを待ってるだよね!ほら小学生のとき一緒のクラスだった
「そんな特徴的な名前なら憶えているはずなのだけれど、記憶にないわね」
ざわざわと、男どもの好奇な声はその大きさを増していく。
「何かあったのでしょうか」
「確かに騒がしいな」
俺はその騒ぎに中心にいる人物のことを特に考えもせず、周りの男達同様に好奇の視線を送った。
「………あ、来た」
すると、人混みをかき分けてその件の女の人が俺の方を見てからこっちにやって来た。
「神宮寺郎ね、話があるこっちに来て」
「は?」
青髪でセミロング、目鼻立ちは整っていて、男どもがご執心なのもなと納得の美人さんだった。だが瞳には生が宿っておらず、「感情?なんですかそれは」といわんばかりに無表情だ。
シャツ型のセーラー服の上に青いリボンをつけていて、丈の長いスカートを着ている。これは近くの青山女子学院の制服だ。地元でも有名な女子高でかわいい制服が女子から人気を集めている学校である。
そしてその生徒であるらしいこの女を俺は知っている。だがまぁ別にメインヒロインとかではない。どっちかというとモブ側である。
名前は確か”
だがどちらにしても魔法関連のことなのは違いない、ここはまぁおとなしくついていくか。
「じゃあな小鳥遊兄弟」
「おい、気をつけろよ」
「気をつけてくださいね神宮寺先輩」
来栖理亜のただならぬ気配を感じ取ったのか、二人は俺を心配そうに見つめる。
「あ、おい累、放課後俺の教室に来い話がある」
「?、まぁ別にいいけどなんの話だ?」
「そんとき話すよ」
そういって俺は小鳥遊兄弟と別れた。
「はぁ!?なんで青山女子学院の子があんな不良を呼び出すんだよ!」
「おかしい!これは絶対におかしい!」
「ふざけるなぁ!俺の春がぁぁぁぁ!」
各々愉快な反応をしてくれているようだが、多分君らが思ってるような話じゃないと思うよ。
そして俺は来栖理亜の背中についていき、俺が通っている学校の近くにある倉庫の裏にやってきた。
するとまだ夏と言っていいはずの気温のはずなのに寒気すら感じる霧が周りに立ちこんできた。
………この感じ人払いの魔法をかけてるな。用意周到なものだ。
「単刀直入に聞くけどあなた、如月という魔獣を知ってる?」
「………」
なるほど、そうきたか。
俺は今まで如月のことは他の誰にも喋っていない。なぜならいったところであいつの居場所も、あいつがいつどこに出てくるかもわからないんだ。報告をしたところで何の意味もないだろう。
だから俺は今まで報告をしていなかったんだが、うむ、こうなっては嘘もつけないよな。
………てかなんで俺に聞いてきたんだ?まさか関わりがあることがばれたとか?
「まず聞きたいんだが、なんでそんなこと聞くんだ?俺は善良な魔法使いだぜ」
「あなたと如月が接触している、と報告があったのよ」
「誰がそんなこと言ったんだ」
「それは教えられない」
………まずい、ここで俺が如月と接触していたなんて言ったら多分無理やりにでも俺は連行され、情報を吐かせられるだろう。そうなれば今日中には学校には帰れない。
それだとイベントを進行できないしなぁ、イベントが進行できないと後ろに控えてる鬱イベントに対処できなくなってしまう。
「そうか、でも残念だったな俺は何も知らない、それでも俺の話をもっと深堀して聞きたいってんなら、今日の放課後俺の学校に来い、教室は2-4だ」
こうすれば俺は情報を吐かせるのに無理やり連行されたりはしないはず、それに今日のイベントの戦力の補強もできるはずだ。………はず、だ。
「そ、じゃあ放課後その教室に行くけどもしいなかったら、わかるわね?」
冷たい瞳が動く、それは俺の首筋に向けられている。
「あぁ、そんな愚かなことしねぇよ」
これはもう俺が如月と関係を持っているってことを完全に確信してるだろうな。それでもこんな配慮をしてくれるんだ、魔法統一会の人間のわりには優しさがある方だろう。
「じゃそれで」
彼女はそれだけを言い残してその場を去っていった。その手にはナイフが握られていた。
「ふぅー、怖かったー」
多分一言でも返答間違ってたら俺の首は飛んでただろうな。
ほんともう、なんでこの世界はこんなに命が軽いのよぉ。
と心の中で辟易としながら俺も学校に戻った。
・
「おはよ、神宮寺」
下駄箱で靴を履き替えていると、横から竜胆雅が話しかけてきた。
「んー?あぁ竜胆かぁ、ちょうどいいとこに来やがったな」
「その口調は来てほしくないときに使うものだけどね」
「お前今日の放課後2-4に来い、話がある」
「!、それって!いや、ちょっまだ早くない!?」
竜胆はなぜか頬を染めてあたふたしている。
「何言ってんだ、あっちの件だよ」
「………あ、へぇ、まぁわかってたけどさぁ」
俺がそう言うと目線をそらし、口をとんがらせてる。何が不満なんだこら。
「ま、いいよ、とりあえず放課後あんたの教室行くわ」
「サンキュ、んじゃ、今日の放課後」
「ちょ、ちょ待てよ」
それだけを言って立ち去ろうとしたら竜胆が止めてきた。
「私、あんたと一緒に行きたくてここで待ってたんだけど?」
若干むっとした顔で俺に抗議してくる。
「え、おうじゃあ一緒に行くか」
「うん!」
え、何その無邪気な笑顔、また見せてくれるの?もうやだ惚れちゃうよ俺。
………まぁ最終的にこの笑顔を一番見せるのは主人公に対してだろうけどね。
・
そして時は流れ放課後になる。
「なぁ神宮寺、話ってなんだ?」
俺は原作通り小鳥遊累を教室に呼び、俺は神宮寺のことを見つめ、特に何も言わない。
ここでゲーム本編の神宮寺は今まで溜まっていた鬱憤を晴らすために小鳥遊に殴り掛かるんだが、まぁ今の俺にそんなことをする気はない。
「神宮寺?」
「…………そこで待ってろ」
「でもよぉどういう話なのかくらい教えてほしいんだけど」
「俺はよぉ、お前がうらやましかったんだ」
とりあえず話すこともないから、原作通りに少し嫉妬心をあらわにするか。
「お前が他の先輩方にちやほやされるのがよぉ」
「え、でも昨日お前もちやほやされてただろう」
「………でもよぉお前の妹はお前に執心してるよなぁ、それがうらやましいぜ、くそがっ」
「いやいや、あれは普通の兄弟だろ」
いやあれは普通ではないだろ、というツッコミを抑える。
「でもよぉお前はモテるんだぜぇ」
「俺はモテないだろ、なんなら今テニス部で人気なのはお前の方だぜ」
「男ばっかじゃねぇか!」
がやがやとしゃべっていると、隣の壁から何か振動がしてきた。
………来たか。
ばぁぁぁぁぁん!!!と壁を破壊して現れたのは巨大な魔獣。
うねりのある毛皮が炎のように揺らいでいる。沸き立つ威圧感は人を委縮させるほどのものだ。
人を丸のみできそうなほど大きい口に、教室の壁に頭をぶつけるほどの巨躯、それはまさに人を殺す動物だ。
「はっ、何がっ」
小鳥遊累は戸惑い、尻もちをついた。
「ぎゃらぅぅぅぅぅ!」
大口を開いて俺に襲い掛かって来た。
俺はそれを越していたので魔法で腹を強化していた。そのおかげで大したダメージはなかったが衝撃がすごく、よこにあった黒板に叩きつけられる。
「ぐっ」
うめき声をあげたが大丈夫だ、俺は思ったより強くなってたみたいだな。それよか問題はあの魔獣だ。
俺が視線を魔獣に当てると魔獣の視線は小鳥遊累に向けられてることがわかった。
「神宮寺!」
「ばっこっち来るな!」
なんだ!こいつ原作じゃない動きをしやがった、ここであいつはすぐさま逃げるはずだ。
逃げて、逃げて、どうしようもなくなった先で死なないために魔力を発現させるはずだったのだ。
「早く逃げろ!累!」
だが大丈夫だろ、今あいつは死の危機に瀕している。現に後ろの魔獣におびえて涙を浮かべている。魔力を解放させる条件は整っているはずだ。
大丈夫、これで、これで終わる。あいつの魔力が解放されて終わる。
終わるはずだったんだ。
「逃げれるか!お前、をおい、ぐぁぁぁぁぁぁ!!」
俺の思惑とは違い俺を助けようと近づいてきた累の腕を魔獣は食いちぎってしまった。
「は?」
浴びせられるのは血の雨、降り続ける雨は俺の視界を埋め尽くしていく。
魔獣の口からこぼれる累の腕だったはずのものは今魔獣が咀嚼している。
「なんで、なんでこんな………」
わからない、なぜこんなにも酷い現状になっている。
「あ、あぁぁぁ!」
累の悲鳴が俺の鼓膜に何度も響く。
「………なんで、なんで魔力が解放されないんだ」
心のどよめきが心臓の鼓動を早くする。まるで耳のそばに心臓があるのではと勘違いするほどだった。
魔力が解放されて、魔獣を倒して、それでハッピーエンドだったはずだろ。
それで、ゲームが始まったはずなんだ。それがシナリオで、それが当然なはずなんだ。
でも今、俺の目の前に広がっているのはそんな平和な世界ではない。
「………ち、ちがう、俺が、俺が変えちまったんだ」
テニス部の皆にテニスボールを送ることが迷惑になるだなんて思っていない、累が飲みかけのパクエリを渡されたくらいで俺のことを嫌いになるなんて思っていなかったんだ。
俺はただ自分がゲームのキャラにほめられるのに気分をよくしていただけだった。
どうせ、原作通りになるだろうと思っていた。どうせ主人公が全部やってくれるだろうと思っていた。だから気楽にそんなことを続けていた。
でも違う、今この世界にいるのは神宮寺郎ではなく、俺だ、俺なんだ。
もうゲームの世界じゃない。もうゲーム知識だけに頼って考えることを放棄するのはもうやめてやる。
魔力が解放されない理由なんて知らない。原作なんてもう使い物にならない。
これからの俺は一人の物語の登場人物として、生きてやる。
「来い、よ、クソ魔獣、てめぇをぶっ殺してやる」
「う、あ、逃げるんだ、神宮寺」
腕をなくしたときでも俺のことを心配してくれるのかこのお人よしは。
「止血しとけ」
出血はしてるが、止血すればきっと生きれるはずだ。
「おまっ、立ち向かう気なのか!だめだ!人間が勝てる相手じゃない」
「はっ安心しろ、俺は普通の人間じゃない」
そういって笑って見せる。小鳥遊は茫然として開いた口が塞がらないといった感じだ。
「ふぅ、生きるための時間稼ぎだ」
保険として呼んでおいた竜胆雅と来栖理亜の到着までここで時間稼ぎをしてればいい。
「行くぞぉぉ!」
俺は手に机ぐらいの大きさの炎を生成する。その巨大な炎を魔獣に向けて発射した。
それを魔獣は息を吹くだけで消し去る。
「はっ、渾身の魔法だったんだがな」
だが俺も強くなってる、まだ戦えるはずだ。
次は多量の水を含んだ玉を生成し、魔獣の視界を埋め尽くすように破裂する。
「ぎゃぅ!?」
急に視界が水で埋め尽くされた魔獣はたじろいで首を振っている。
「すっ」
そこを刺すように炎の魔法を腹部に向けて叩き込む。だが………
「ちっ、効かないか」
魔獣の毛皮はなかなかに硬くまるで効いてる感じがしない。
「ぎゃぁぁぁ!」
「うわっ!」
魔獣は水を振り払った後、反転して小鳥遊の方に噛みつきにいった。
「くっそ!」
俺はすぐさま魔法で足を強化し、小鳥遊と魔獣の間に立ち腕を差し出す。
「ぎゃぅ!」
「ぎっ、くそいてぇ」
当然魔獣は俺の腕を噛みちぎろうとするが俺の魔法で強化されてる腕は嚙み切れなかったのか、何度も歯を腕に外しては刺す、を繰り返している。
頭から沸騰しかけるほどの痛みに耐えながら、俺は喰われてる腕に炎を生成し、魔獣の口の中で爆発させた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「はっ、どうだ馬鹿がっ」
突然口の中が高温で熱されたせいで魔獣は後ろに引いて、近くの机に噛みついていた。
「はっ、はっはっ」
「じん、ぐうじ、その腕っ」
だが俺にも追撃できる余力はない。何度も噛みつかれたせいか右腕は使い物にならないしな。
「気にすんな、俺は強いからな」
「神宮寺………」
眉をひそめ、小鳥遊が俺を心配してか声をかけてくる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
魔獣が刃をむき出しにしてこっちに襲い掛かって来た。
「ちっ!!」
次は一筋の雷を手から放つ。ぴりっとするくらいの電気ショックだけど、当たれば少し動きを止められるはずだ。
「きゃぁぁ!!」
当たれば、の話だった。
「かはっ!?」
俺の電気魔法をかいくぐってきた魔獣は俺の腹に爪をかきたてる。
っ、いてぇ!焼ける、腹が焼けちまう!
だが現実は俺のことを待ってくれない、目の前に立っている魔獣は今にも俺を殺そうと、喉を鳴らしている。
「くらえっ!」
次は俺の周りに風を巻き起こし、目くらましをして接近してやる。
「ぎゃっ!」
「は………」
すると俺の魔法はかき消された、一本の光の光線によって。
「やっばっ!」
俺の体に痛みが走る。神経が、皮膚が、肉が、溶けていくような、そんな………。
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
光は収まった、俺もなんとか、人の形をとどめているだろう。だが骨はむき出しになり、上手く脳を動かせない、何が起こったのかも理解できない。
「………じ!じ、………っ!」
小鳥遊がなにか言ってる、何言ってんだ、俺は生きてんだろ。
だが生きてるのもぎり、ぎり、だろう。
あんなくそまずい魔獣の肉を食ったんだ、多少は女神がほほえんでくれたってことだろうな。
「そう、だ、俺は、いぎて」
………竜胆は、まだ、か。
・
「はっ、いいねぇ実にいい」
緑髪の女は隣の教室で高らかに笑っている。その顔は火照っていて、何か美しいものを見ているようだ。
女は如月、いま彼女はほんの少し開けられた小さい穴から隣の教室で魔獣と戦っている男を眺めていた。
「きさま!私を離せ!」
「はっ、雑魚が粋がるんじゃない」
竜胆雅を椅子替わりとして。
「神宮寺がっ、神宮寺がっ」
竜胆の顔は腫れあがっていて、腹のあたりから血も流している。足は燃やされて黒ずんでおりおそらく使い物にならない。
それでも考えるのは他者のこと、自分のことなど二の次なのだ。………神宮寺限定の話かもしれないが。
「お前、なんでセンスあるのにそんな弱いんだよ、ウケる」
如月はまるで感情を持たない瞳で竜胆を見下ろす。
「っ!くっ、くっ、くっくそ………」
消え入るような声を吐きながら竜胆は涙を流す。
彼女は魔獣が神宮寺の教室を襲った瞬間、助けに行こうとしていた。だがそれを止めたのは突然現れた如月であった。圧倒的な力に敗北した竜胆は今こうして椅子替わりとされている。
「なぁ、お前らもそう思わないか?」
如月がそう言って後ろを向くと、大勢の生徒が固まっって、光の縄のようなもので縛られている。彼らは全員口をふさがれているため答えることなどできないはずなのだがそう聞くあたり、相当悪趣味である。
「あぁ、そろそろか」
すぐに生徒から視線を外し、好きな人の方に好奇の視線を向ける。
彼はもうボロボロで、骨をむき出しにしている。だがまだ目はしんでいない。それはまだ誰か助けに来ることを考えてのことだった。
「なぁ、お前竜胆といったか」
「あんたなに、しようとしてんの」
「神宮寺郎はもしかしてお前のことを待ってるんじゃないか?」
そして如月は神宮寺の目だけでその真相を言い当てたのである。
「やめ、やめてっ」
竜胆はその後にされることを予想したのか必死に頭を振って涙を浮かべる。
「なんでもっ、なんでもするから、それだけは………」
「いいねぇ、お前と神宮寺、二人の絶望を見れる」
緑髪の女の目は完全にキマッていた。目に光はなく、ただ恍惚とした表情で自分の体を抱きしめているだけだ。
「やめっ」
瞬間、如月の教室と神宮寺の教室を隔てている壁が破壊された。そしてあらわになる、彼が求めていた希望の現状を。
「………竜胆」
「ごめっ、ごめんなさいっ」
彼は竜胆を見つけてしまった。
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