第12話:大阪駅前第三ビルの地下トイレ
友人とJR大阪駅前第三ビルの地下にある飲み屋街で飲んでいた時の話。
この辺りは第四ビル、第三ビル、第二ビルの地下一階と二階がそれぞれ飲み屋街となっており、ビジネス街の真ん中かつ駅からのアクセスも良好とあって、いつもスーツ姿のサラリーマンでごった返している。
ビル内は大まかに「回」の形をしており、道の左右に飲み屋があって、「米」のように通路が渡されている。
真ん中にエスカレーターがあり、トイレもそこに設けられていた。
友人と日本酒を大量に飲んだ私は尿意を催し、トイレに急いで駆け込んだ。
黒いスーツの男性たちが並ぶ小便器で一つだけ空きを見つけ、急いで行って用を足す。
自分でも信じられない量がジャボジャボ出たので驚きつつ、勢いに任せて尿を放つ。
一分くらい出続けていたような気がする。
いったん止まったので、まだ出てきそうな残尿に気合を入れたところでふと、左右の人たちがいつまでも尿を終えないことに気が付いた。
私が来る前から彼らは尿をしていたのに、微動だにせず立っている。
さすがにまじまじとは見られないのでチラリと見るが、一様にビジネススーツで、顔は良く見えないが黙って俯いているようだ。
そこでもう一つ、おかしなことに気が付いた。
トイレの外からは飲み屋街特有のがやがやとしたざわめきが聞こえるのに、トイレの中が異様に静かなのだ。
尿を出す音も、水が流れる音も聞こえない。
さらには誰も入ってこない。
飲み屋街なのだから、トイレが近くなった人がひっきりなしにやって来てもおかしくないはずなのに。
ブルリと身体が震え、最後の尿がじょろっと押し出されるように出て行った。
急いでチャックを閉めて出て行こうとすると、背後の個室のドアがキィと少しだけ空いた。
見れば他のどの個室にも人が入っているようだった。
空いたドアの隙間から、今にも出てこようとする緑色のものがチラリと見えた。
トイレで汚物を啜った巨大なスライムが這い出して来る。
そんな光景がビビッと脳裏に浮かび、手を洗うのも忘れて外に出た。
すると、さっきまでの静けさはどこへやら、うるさいくらいの陽気なざわめきが襲ってきた。
酔っ払ったサラリーマンや大学生の集団が目の前にたむろし、次にどこへ行くか話し合っている。
出入口でポカンとする私の横を次々と男性が通り抜け、トイレに出たり入ったりしていく。
おかしいと思ってトイレに戻ると、そこはいつもの感じの男子トイレだった。
個室は半分ほど空いていて、小便器の男たちは入れ代わり立ち代わり尿を出していく。
狐につままれたような気持ちで手を洗ってお店に戻った。
友人が交代にトイレに行き、帰って来てからこの話をしてみたが、特に変なことはなかったという。
酒の飲み過ぎだと言われて話は終わったが、あれが幻覚だったとはどうしても思えない。
ちなみにこれ以降も何度も第三ビルで飲んでいるが、トイレで変なことが起こったのはこの時だけである。
ただし、トイレ以外では他にも変な出来事を体験しているので、また別の回に書こうと思う。
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