第11話:うぞうぞ
御堂筋線でなんばから梅田に向かっていた時の話。
混み合った車内で席に座ると、視界の端に何かが動く違和感があった。
左を見ると、隣人が膝の上に手を置いており、その袖からうぞうぞと何かが這い出していた。
びっくりしてチラチラ観察していると、それはどうやら真っ黒なムカデのようで、白い手首に巻き付いて膝の方に向かって動いているらしい。
隣人は三十代くらいの痩せた男性で、深く、細く息を吐きながら、手首をジッと見つめていた。
ムカデなんかいれば驚いて反応しそうなものだが、彼は全く動かなかった。
ただ、何となく慈しむような雰囲気で、袖から膝にうぞうぞ動くムカデを見ている。
ムカデがこっちに来ないといいなぁと思ってから、ふとおかしなことに気が付いた。
ムカデは袖から手首を経由して膝の方に消えていく。
心斎橋から本町、淀屋橋を過ぎてもムカデはずっとうぞうぞしている。
世界一長いムカデだってさすがにここまでは長くないだろう。
膝に消えてからどうなるかは手の下だから見えないが、袖に戻って行っている様子はない。
背筋がゾクッと冷えたところで、梅田に到着のアナウンス。
私はサッと立ち上がって、逃げるように車両を後にした。
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