第4話:四辻入道
先日の午後、雨上がりに奇妙なものを見た。
私の自室はアパートの三階にあり、眼下には平凡な住宅街が広がっている。
その中を、車がギリギリすれ違えるくらいの幅の、何の変哲もない一方通行の生活道路が一本、突っ切っている。
道路は途中で別の道路と二回交わり、二つの四辻を形成している。
昔から、四辻には鬼が住むとか、境界ゆえに怪異がいるとか、そういうことは耳にしていた。
しかし、それは京都とかの特殊な四辻の話であって、自室から見えるただの四辻にそんな話は縁遠いと思っていた。
だが、私は見てしまったのだ。
雨が上がったばかりで屋根もアスファルトも黒々と濡れているのに、二つの四辻の正方形部分だけはまったく濡れずに乾いていた。
空を見ればちょうど太陽が雲間から顔を出すところで、四辻は光に照らされて、白くパァ~ッと輝いた。
おばあさんや小学生、作業員なんかが今もパラパラと道路を歩いている。
彼らは別に変なものを見たという感じではない。
ただ、上から見ると明らかに四辻部分だけが変なのだ。
どういうことだろうと思っていると、ふと脳内に「四辻入道」という言葉が閃いた。
そうだ、あの四辻の上に大きく両手両足を広げて、でいだらぼっちのような入道がいるのだ。
おばあさんだの小学生だのが自分の下を通っていくのを、四辻入道はただただぬぼーっと見つめている。
そこに意味や目的といった概念はない。
この想像がしっくりきて、一人でそうかと納得していた。
雨が上がる瞬間まで四辻に車が停まっていたとかの可能性も考えたが、あんなに綺麗に正方形にはならないだろう。
第一、四辻は交通の要衝であり、車を停めていたら邪魔で邪魔で仕方ない。
夜だったら可能性もあったが、バリバリ午後の15時くらいである。
近所で工事をやっているわけでもなく、シートが敷かれているわけでもなかった。
近所の四辻には入道がいる。
いや、もしかしたら日本中の四辻にも、目には見えない入道がいるのかもしれない。
彼らは自分の四辻を持っているか、あるいは風にでも吹かれて四辻から四辻に移動しているのだろう。
そして道行く人や車をぬぼーっと眺めては、雨やら雪を遮っている。
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