第3話:あべこべの指
2024年9月の頭に、なんばから梅田まで御堂筋線に乗っていた時の話。
そこそこ混んでいる車内で何とか席を確保し、ふと隣に座った男性を見ると、長袖から覗く手先に違和感があった。
彼は前かがみに座って、指を伸ばして手を膝の辺りに置いていたのだが、よく見ると、指の生え方があべこべなのだった。
手の甲はこちらに向いているのに、一番上に小指があって、そこから薬指、中指、人差し指と続き、一番下に床を向いた親指が生えている。
手をクロスして逆様に組んでいるのかと思ったが、わざわざそんな姿勢を取る理由もなく、何より肩から手先に向かって長袖は真っすぐ伸びていた。
上着を羽織っているわけでもなく、ちゃんと長袖のシャツを着てボタンを留めている。
手の甲には少し濃い体毛が生えていたが、肌の色などに違和感はなく、健康的な人間のものだ。
顔を見ても普通の大学生くらいの男性であり、肩越しに感じる体温や存在感も生きている人間のものに違いない。
だが、彼の手から先はどう見ても指の上下があべこべなのだった。
見てはいけないものを見ている気がして、気づかれる前に視線を逸らした。
酷暑とゲリラ豪雨のコンボでびっしょりかいていた汗が引いていくのを感じた。
やがて梅田が近づき、よしと思って席を立とうとしたが、最後にもう一度と彼を横目で見た。
すると、彼はスマホを持って顔に近づけているところだった。
角度の問題や周囲に乗客がいたのもあって彼の手はよく見えなかったのだが、スマホに表示された時間が奇妙なことはすぐに分かった。
時刻は17時35分だったのだが、それが
17
35
と、縦に表示されており、しかもその文字は鏡文字のように反転していたのである。
手だけではなく、スマホの文字も左右あべこべ。
ヤバいものを見ている、という思いに心臓がズキッと鋭く痛んだ。
同時に電車が止まり、私は乗客に押されるようにしてホームに転げ出た。
すさまじい人波に振り返ることもできぬまま、電車はそのまま地上に向けて走って行った。
彼は一体、何者だったのだろう。
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