第2話:私の呪い

 自分にかけられた「のろい」として、明確に自覚できる事柄が一つある。


 今からその話をするが、読んでしまうと同じく「呪い」にかかってしまうかもしれないから、気を付けた方がいい。


 これは死ぬとかそういうものではなく、日常の中にノイズが一つ入り込むタイプの「呪い」だ。


 私が思うに、ホラー小説というものはすべからく、この種の「呪い」を宿していると思う。


 ただしそれが効くかどうかは、読み手次第なところがあって、作者としては気を付けてくださいと言うしかできない。


――――――――――――――――――


 熱いシャワーを浴びていて、背中に冷たい水滴が落ちてくるとものすごくびっくりする。


 たった一滴のくせにぞわっとして、シャワーに当たっていない部分の体温が一気に下がる。


 前のめりに髪の毛を洗っている時など、そのまま目が開けられなくなる。


 すぐ目の前に幽霊がいるんじゃないかと思って、無暗に歌なんか歌い出す。


 そしていつも思い出す。


 小学生の頃に大樹くん(仮)は言っていた。


「目ぇつぶってる時に幽霊がいるって感じたら、


 あの言葉がいまだに呪いとなっていて、私の心にずっと


 天井からだらりと垂れ下がった幽霊が、私のつむじに向かって細い手をゆっくりと伸ばしてきている。


 脳裏に浮かんだ映像を吹き飛ばそうと声を張り上げ、歌詞の明るい歌を歌う。


 えいやっと思い切って目を開けると、そこには何もいない。


 あーっと叫びながら天井を向くと、私の真上だけ濡れている。


 真っ白い風呂場の天井は平らなはずなのに、なぜかいつもここに水分は集まってくる。


 透明な水滴が三つか四つ、鍾乳石の赤ちゃんみたいに垂れ下がっている。


 シャワーで一気に天井を濡らすと、ボタボタボタボタうるさくなって、まるで恨み言でも言ってるようだ。


 ざまぁみろと思う。


 これが私の、この「呪い」への対処法である。


 ほとんどの場合は忘れているが、月に一度か二度思い出す。


 冬だとさらに頻度は増える。


「前じゃなくて真上にいるんだよ」


 私がかけられたこの「呪い」、果たしてあなたにはかかるだろうか。

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