本編1

それは一昨日の話だ。


いつも通りの帰り道。住宅街の中を俺とコマリが歩いていた時だ。


「くっそぉ…ああああああ!!!!!3周年アニバーサリーガチャ外れた亞亞亞亞

亞亞亞」


これほど苦しいことはねぇっつうのに!!!!!


「残念だったね〜私は10連目で限定の葉先将軍出ちゃったんだから!!」


 葉先将軍。


紫色の長い髪と、もちもちボディを備えた最高の美女。


俺がやっているソシャゲ、「ヘルメスオンライン」の神の一人。


そして、俺の推しだ。


と、よりによって、一番当たって欲しくない奴に当たってしまった…


「ああああああああああ!!!!!!!!なんで一番当たって欲しく無いやつにあったちまうんだよおおおおおおおお!!!!!!!クソが!!!!」


「どんまいだね〜タイシくん♡この子は私の物だから君には渡せないな〜、あで

も交換機能があったら渡してもイイけどね!」


 ヘルメスオンラインに交換機能は無い…


一種の煽りだ…


くそ…何か気晴らしになるもの…


俺は、目の前のタバコ屋の隅に置かれた自動販売機に目が行く。


「しゃーねえ!!!こうなったらやけ飲みだ!!!!」


「え?酒?」


「んなわけねぇだろ!」


酒飲んだら退学食らっちまうだろぉがよ…


俺はタバコ屋の前の自動販売機で、サイダーを購入すると、それを一気に、喉を

痛めるくらいの勢いで飲み干す。


しゅわあと言いながら喉の中で鳴る。


体の奥から出てくる炭酸は、全ての嫌なことを取り払ってくれる。


俺は、ふう〜と言いながら炭酸を吐き出すと、ニヤリと笑いながらコマリを見つ

めた。


「な、何…?」


「いや…やっぱり炭酸が一番だな〜って思ってさ。」


「は?どういうこと?」


「まあ…別になんでもないぜ?」


「は?なにその言い方…ちょっと含み入れてるよね?」


「さぁ〜どうだかな〜」


「んな!?そうなの!?なにを言いたいの!?わかってるでしょ!?私はそうい

うのが気になるって性格ってのは!!!」


「え〜?それがわかってなかったらこんなことしてねぇーよだ!」


「はぁ〜!?ちょー困るんですけど!?」


「そのまま夜も眠れねぇままでいろ!!!」


「はぁ〜!?私を眠らせないつもり!?このガキ!!!」


ははー!!!俺の推しを俺よりも先に引くことが悪いんだよー!!!


まあ、特になにも思ってないけどねー。


って?あれなんだこれ?


俺は自動販売機の近くに置いてあった赤い飴玉のようなものを拾う。


透明で透き通ったパッケージに英語のイニシャルのMERという3文字だけ刻まれて

いる。


「ん?タイシなにそれ?」


「さあ?」


「さあってどういうこと?」


よくわからんけど、なんか美味しそうだ…


ちょうど炭酸と合わせて飲んだらさらに美味そうだし…


「えい!!」


っと俺はパッケージを開けて口の中に放り込んでみる。


口の中には、いちごの匂いが…って何これ!?不味っ!!!!!


何かの苦味だけではなく、変な泥水のようなよく分からない味が舌を襲う…


「うげぇ!?なんだこれ!?」


俺はたまらず、左手に持っていた炭酸を使ってその飴玉を腹の中へと飲み込む。


せっかくの炭酸の残り香が台無しだ。


「そんな道端に落ちているようなもんを食うから駄目なのよ…」


はあっと言った風にため息と共に、両手を広げるジェスチャーをする


「これだからタイシは…ってか!?くそ!!!」


「よく私の心を読めたわね。」


「まあ、それが得意技だからな!!!」


俺の得意なことは、相手の表情から心を読むという能力。


いや…正確には、そういうことが得意なだけで、本当は不正確なのだが…


なんとなくわかる…


こいつの場合はとてもわかりやすい。


例えば、この今の顔!!!!こいつ今俺に対して呆れている!!!!とても

だ!!!!


絶対に呆れてやがる!!!!


このクソ女!!!!


幼馴染だからって容赦しねぇぞ!!!


「ほんと…タイシはバカなんだから…」

(でも…そういうところも好きだなぁ…♡)


ん?


「え?今なんか言った?」


聞き間違い?今…好きって聞こえたような…


「え?そんなに知りたい?今、タイシはバカだなって言ったけど?」


「あ、いや、その後…」


「その後?何も言ってないけど?」

(変なこと聞くなぁ…でも私のこと、そんなに知りたいのかな…?嬉しいな…)


「やっぱなんか声聞こえるな…なんだ?」


「変なの喰って幻覚でも見えたんじゃない?」

(ほ、本当に大丈夫なの…?し、死んじゃったりしないよね…!?)


んー…やっぱり聞こえる…っていうかこの声…コマリ?まさかな…


「やっぱり聞こえるな…もしかして、あの世の声だったりな…」


「へー…だったら葬式だけはちゃんとやっておいてあげるよ!」

(え!?え!?死んじゃうの!?タイシ本当に死んじゃうの!?い、嫌だよ…ま

だ私何も言えてないのに!!!!)


うん…やっぱりコマリの声な気がする…


でも…これってなんだ?やっぱり幻聴?


もしかして、さっきの飴…そんなにやばい奴だったのか?


「ていうか、その飴、結局なんなの?」

(ま、まさかその飴…毒とか入ってないよね…?)


いや…これ本音か?


「まあ、毒とか入ってないっしょ…大丈夫大丈夫。」


「はあ〜!?ちょっとざんね〜ん…」

(え?ほんと!?よかったぁ…もうお別れなのかと思っちゃったよぉ…)


まさかな…


ちょ、ちょっとだけ仕掛けてみるか…


「ん?お前、なんか付いてるぞ?」


俺はいわゆるイケメンしかできない特権、顎クイをやって見せる。


大きな胸が少しだけ腹部に当たっている。


「な…!なに…」

(え?な、あ、、あああ、あえ?な、なに!?!?ふぇ!?待ってイケメンすぎる!!!イケメンすぎる!!!!待って…尊…あ…カッコ良すぎるぅぅぅ…も、漏らしちゃうよぉ…おしっこじゃない何かが…漏れちゃうよぉ……!!!!これ以上はやばいよぉ…!!!!)


コマリは、俺の腹を両手で抑え、そして、俺ごと押し飛ばすと、「なに!?本当に!本当に毒でも食べたの!?」

(死んじゃうかと思ったぁ…でも…カッコよかったなぁ…ああ…今日の夜は困らないかも…♡)


まじかこいつ…

幼馴染の俺を!?っていうか、めっちゃ耳赤!!!!


表情変わってないのに!?


「おい待てって!!まだ取れてないぞ?」


「え?本当?じゃあさっさと取ってよ!!」

(ま、またあの画角が見れる!?今度はスマホに撮らなきゃ…)


俺は再び、コマリを手で近ずけさせると、自然を装って、コマリの顔に俺の顔を近ずける。


コマリはの表情は、一切変わっていないが…

中身はというと…


(かっこよすぎぃぃぃぃぃぃ………き、キスできる距離…今なら食べれる…いける…でも…ああああああ!!!!!自制心なんてなければ良いのにぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!チューしたいよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!)

心の叫びが凄いな…


「早くしてくれない?」


なんでこんなにこいつは表情を変えられずに居られるんだよ…


そう思いつつ、口元にゴミがあると仮定して、取り払うように拭い取った。


「うん…これでよし!!!これで可愛くなったな!!」


日常なら絶対に使わない言葉!!さあ、どうだ!?


「え?キモ…ま、まぁありがと…」

(ファアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!唇触られた…!!!!!!!めちゃくちゃ硬かった…男の人の指ってあんなのなんだ…まだ指紋が唇に残っているかも…)


頭の中に欲望の渦巻いたコマリの声が響く…まるで獣が獲物に食いつくかのように吠えるコマリの声。


コマリは俺から目を逸らし、後ろを向いた。


「それじゃあ、もう傷拭いはできた?そろそろ行こう?」

(はぁ…はぁ…はぁ…指の跡…美味しいぃぃぃ…)


コマリの唇を下で撫でる音。

うっすらと聞こえるそれはまるでキャンディーを舐めるかのように、ぺろぺろとする。


こうして、俺は本当に読心術を得たようだ…


ていうか…コマリ…俺のこと嫌いじゃなかった…ていうか、逆にヤンデレだったし…


その時の俺は呑気な物だった…

その日の夜は眠れなくなるというのに…



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る