第5話 ご褒美は何がいい?

 「あと二週間で前期期末テストだ…!」 

 

 「このままいけば、赤点は確実に回避できる。けっこう楽しみな感じ?」 

 

 「おう。」

  

 「じゃあ、今日はテストの重点対策です!」 

 

 そう言って私は彼にプリントを渡した。彼はすぐにプリントに取り掛かり、私は今後のプリントを作る。 


 あれから、春輝がアイドルとして活動している動画をよく見るようになった。MVだったり、ダンス動画だったり、いつもなら見ないテレビのチャンネルをつけてしまうようになった。 

 

 ここまでくると「アイドルに興味ない」と言えないレベルだと思う。そして、なんと言うかこう…。意識してしまうようになった。 

 

 ファンであって、でも、それ以上で、この関係になんと名前を付けようかと考える。  

 

 ただ、あくまで先生と生徒で、客と従業員なわけで、アイドルと一般人だ。 

 仕事に支障を出すべからずだ。気を引き締めて集中しよう。

 

 「先生…!」

  

 気が付くと、春輝は私を呼んでいた。

  

「ごめん。ぼーとっしてた。」

  

「3回くらい呼びましたよ?先生、今日どうかしました?」 

 

 どうって…。春輝のせいなんだよなと思う。というかもう、仕事に支障出ちゃってるじゃん。 

 

「別にどうもしてません。で、どうした?」 

 

「プリント終わりました。」 

 

「速くなったねー。じゃあこれ、終わるまで解いて待ってて。」 

 

 私が褒めると、春輝の方もまんざらでもなく嬉しそうな表情をするのが厄介だ。 

 

 そんなつもりじゃないのに、彼が笑うと私も嬉しくなる。

  

「はい。満点!おめでとう!」 

 

「やった!単語帳頑張って読んだからだな。」 


 彼は嬉しそうにそう言うと、少し経ってから私に尋ねてきた。

 

「テストでいい点とったら、なんかご褒美ありますか?」

  

「ご褒美か。甘い物食べたい?あ、男の子はラーメンとかのほうが嬉しいのか…?」 

 

 彼は少し考えると、じゃあ甘いものでと答えた。しかし、そんなに嬉しくなさそうではないか。

  

 「なんか欲しいものある?」 

 

 私がそう尋ねると春輝は一瞬瞳を閉じてから首を振った。 

 

 「先生もご褒美ほしいなー。」

  

 冗談でそう言うと彼は『何がいいですか』と尋ねてきた。 

 

 「いや、冗談だよ!先生が生徒からもらうなんて、ルール上ダメだし。はい、次のプリント解いて!」 


 欲しい物はない。けれど、ただ春輝にこっちを見てほしい。 

 

 年下のアイドル相手に何を考えているんだと思って、思わず笑ってしまった。 

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