母子

 俺の知らない間に甥っ子まで出来ていた。名前はとうが。姉はいきなり赤ん坊を二人も育てさせられるのかと心配したが、乳母の子にも乳母がつくらしい。


じゃあ更にその子供はどうしているんだろうかと思ったら、とうがの乳母は、産まれたばかりの我が子を亡くした身の上だった。これって間に姉を挟む必要無くないか。しかも長上おさがみは暇さえあれば、とうがと赤ん坊にべったりだ。


「どうしてこんな風になっちゃったの。他所の子ばっかり構わないでください。これ以上あなたの関心を奪われたくない。大体お世話は姉上の仕事でしょ」


「他所の子、ねえ……。は子供に縁が無いのでな。将来的にもまず間違いなく、血縁上は他人だが。何なら今までもそうだったな。霧彦きりひこひめも他人だな。その点地稚媛つちわかひめには刷り込みが効くやも知れん。ああ、だからときに配偶者は嫉妬するのか」


言い訳だ。赤ん坊を出しにして、ただ蔑ろにしたいだけ。そんなんじゃきらいになるからね、本当にわかってるの。


「タマル冠がいけないんだ。曲がりなりにも生母なんだし、どうにか引き取って貰おう」


 俺がその辺で捕まえた女の使用人と一緒に居室を訪ねたら、タマル冠が今まさに首をくくる現場に出くわした。しこたまびっくりして応援を呼んだら、大騒ぎになってしまった。当然ながら長上おさがみも駆け付けた。


「死んでどうする。まだ兄に酬いるのか、わざわざ争いの火種を作ってまで」


「そんなつもりは毛頭ない、ただ楽になりたいのです」


「とにかく死んで貰っては困る。あまり深く考えるな、好きなだけ静養しろ。別荘もくれてやるから選びに行って来い。献上されて各地にある」


タマル冠は旅に出た。どの道使用人から見張られる毎日だろうから、少しでも気晴らしになればいいけれど。


「はー、良かった良かった。やっと出て行った。好いた男に見向きもされないからといって、後々子供相手に泣きついて、なにかと世話させるご母堂サマになられては困る。悪影響だ」


なんだろう。長上おさがみの発言に、妙な実感がこもっているような。



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