画手紙

 姉夫婦みたいに仲良くなんて求めてない。一生養ってくれれば、それで良かった。俺なりに対価だって考えてあげたのに。


でも断ったのはあなた自身なんだから、もう誰にも渡さない。それがひめ達だろうと、戴冠タイカンだろうと……。新参のタマル冠は、戴冠タイカンにいさまに首ったけだから一安心。けど飽きて長上おさがみを狙ったら容赦しない。


「シクシク、なんともったいない。そんな大きな原石、磨けばさぞ素晴らしい宝玉になったでしょうに」


 墨を磨る杼媛とちひめが、こちらの作業風景を見て嘆き出す。だって俺は興味ないし。足りない青色を得る為に、瑠璃を砕いて粉々にして、樹脂と混ぜる。黒い墨、赤い弁柄、黄色い黄蘗は既にあったから、これで十分だ。


あのあと数回礬水ばんすいを引いた布地は、既によく乾いていた。長上おさがみが、剃刀で葦を削って文字を書きやすく形を整えていく。留守役るすやくは、手本となる大陸文字が書いてある木簡を見繕って、次々机の上へ広げていく。


霧彦きりひこ。ここに引いた横線の下に、❝あめ❞の分かりやすい画を頼む」


俺は絵の具や水を混ぜて必要な色を用意すると、上辺に薄墨で雨雲を表すもやを、その下から縦に散らばる無数の破線の雨粒を、指でサッサッと描いた。


絵の具が十分乾いたのを確かめると、長上おさがみ留守役るすやくが指し示した大陸文字をよく見ながら、


阿女あめ 


と書いた。長上おさがみと俺は同じ作業を何度か繰り返し、似たような画と、あて字の阿女あめが一緒に書かれた布地を量産した。


 翌る日の朝、報せの鳥が数羽、脚に布地を括り付けられてから、空へ羽ばたいた。向かう先はサルヌリ朝の戴冠タイカンだ。


あの鳥たちが、一羽もサルヌリ朝へたどり着かなければ……。

戴冠タイカンの物わかりが悪くって、届いても意味を理解しなければ……。

離れているまま、これ以上距離が縮まる事は無いのに。


それでも俺のまったく知らないところで、いつの間にか仲が進むよりましだもの。

ひどい人。泣く泣く手助けしている俺のこの、甲斐甲斐しさに気づいてよ。


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