刃状沙汰
現在の義兄は、当時はまだ調理人の見習いとして、使いっ走りの真っ最中だった。
「えーっと、悩みを抱えて困ってる人が居て。食事で吐きそうなものは避けるんだ。そうなると汁物位しか残らない、下手したら死んじゃう。だから何か食べられそうな物を探していて、道に迷ったら君が居たんだ」
「なにそれ、ぜいたくな悩み。吐いちゃうなら坐薬でいいじゃん。まあ俺は買えないし、実物見たことはないけど」
「あー、あ、ああーっ。いやまあそうか……。これは荒療治になりそうだ。いや意外と気にしないのかな……」
のちの義兄が一人深く考え込んでいると、何も知らない姉が戻って来て、さっきの俺以上に仰天し、危うく刃状沙汰を起こすところだった。
義兄は、姉と俺を洞窟から連れ出した。そしてあやぎり朝のお膝元へ堂々と帰還して、今思えば
「随分と戻りが遅い。野垂れ死にの噂まで流れていましたよ。で、新たな食材は」
「お陰さまで、食べちゃいたいくらい愛おしい婚約者と巡り合いました。小っちゃな義弟も出来まして、いやあ~、家族団欒っていいっすね~」
義兄はそういう欠点持ちだ。悪気無く人の神経を逆なでする発言をしてしまう。だから全然出世できない。このときも、調理具を研いでいた
「どいつもこいつも役立たずっ。ここらで一人、見せしめが必要かもね。今日は格別虫の居所が悪くって、あのひとってば朝から何も飲まず食わず。もしやわたくしが毒でも盛っているのではないかと、
「あわわわわっ。落ち着いて聞いてください。食材よりも、今はお薬ですよ。もう坐薬に頼りましょう。どうかそれでご勘弁を~」
その後症状は落ち着いたらしい。義兄が俺にこっそり耳打ちして教えてくれた。
「でも実際のところ、原因は分からない。見ている限り、緩慢な飢え死にを体験されたいのだろうか」
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