秘めの章

画心

 えっ。それってつまり……俺って安上がりと思われてる。

何だよそれ、すっごいむかつく。愉しいひとときがぜんぶ台無し。

戴冠タイカンなんか……、戴冠タイカンなんか……、ギリギリのところでぐっとこらえた。

一応長上おさがみから貰ったんだし、磁石石じしゃくせきをあらぬ方向にブン投げなかったのは褒めて欲しい。


「プププ、お二方。何をなさっていますの。ちょっと自慢話になっちゃうのですが、聞いてくださいませんか」


なんだ杼媛とちひめか。どうせ自慢なんて、ご実家所有の砦奪還記念に、ようやく謹慎解除されただけでしょ。


「フフン。姐さまと違って、あたくしの養蚕機織りなど、ほぼほぼ道楽でしたのに。近頃は長上おさがみから直々に褒めていただけて。この杼媛とちひめ、冥利に尽きますことよ」


それってどういう事だろう。謹慎中に暇過ぎて上達したのかな。杼媛とちひめは今もたくさん布束を抱えているけれど、俺には良し悪しなんか分からないし。


「いっけない。これからまた呼ばれていますのに。それではお二方、ごめん遊ばせ~」


行き先は分かるし、勝手について行ってみよう。長上おさがみに叱られたら、泣きわめいて文句言いながら帰れば良いんだし。


長上おさがみ、遅れて申し訳のうございます。杼媛とちひめが参りました」


はいはい、とっても嬉しそう。この前は怒られるのが分かりきってたから俺を誘ったんでしょ。一人で会いに行くのが怖くて。いざとなったら俺を盾にする気満々で。

でもね、俺だって。杼媛とちひめだけに美味しいとこ取りなんかさせないよ。


「ありがとう杼媛とちひめ、上出来だ。留守役るすやく、あとは礬水ばんすいが要るなあ、あて字はが書くとして、だれか画心のある者を知らないか」


よっしゃ来たな。俺はその場に乱入し、杼媛とちひめを押しのけて長上おさがみと向かい合った。


「画なら私に任せてください。なるべく要望どおり描いて見せます」


「出来るなら任せても構わないが、誰が霧彦きりひこを呼んだんだ。杼媛とちひめか」


「いいえ、断じて違います。ヨヨヨ」



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