神鳴り山
にいさまは、前を歩くハイタークの背負子に腰掛けておられる。
あゝ口惜しや。寵姫に扮したままでは虫刺されが危ぶまれる故、平素と変わらぬ装束へお戻しに。それにしてもにいさま、たといどんな格好でも、どこで何をされていようと、なんてお美しいんでしょう。
「遅いぞハイターク。揺れで酔わぬ程度にさっさと歩かぬか」
「いえしかし、後ろのタマル冠が遅れて道迷いでもしてしまっては……」
「迷わなければ良いのだろう。タマル冠、木々に(※ハイタークが)道しるべを刻む故、見落とさずついて参れよ」
そんな、
遅れることしばらく、
はてさて、にいさま。いずこへいらっしゃいます。おや、先のヒイナがバテておるわ。
「ぜーはー……ぜーはー……もう歩けにゃい。ひいなくたくた……帰りは
「下りは楽だぞ。どうしても無理なら仕方ないが」
「意地汚い
「当然だろう。
「終始ハイタークに背負われていた癖に。そこまでして飲み水が必要なのか、まあよいわ。
まったく、腹立たしいくらい用意のいいこと。いや待てい、
しかも一つだけなら実質口移し……ううむ、後学のため覚えておかねば。
「なあ
「くくくっ、それには同意する。もう少し脚の遅ければ、ハイタークが息の根を止めただろうに。まったく命拾いしたのう。――ほれ見いや、これがお目当ての石くれだ」
にいさまはそう仰いながら、この神鳴り山名物の、
「ああこれが。思ったより占領統治に手こずってしまったから、ようやく見れたな」
「そうだろう、そうだろう。サルヌリ朝の民共は、とにかく臆病で怠け者だからな。何かあればすぐ山へ逃げる。盛大に感謝せよ。
「まあな、あやぎり朝とはあまりに気質が違いすぎる。――何かあったらヒイナのせい。大の大人が揃いも揃って、口々に泣き言や暴言を浴びせる様は正直ぞっとした。あんなのが地続きになって、街中を闊歩したらと思うと気が滅入るのなんの……あやぎり朝に繋がる関所も、前以上に厳格化した位だ」
あれえ、
「そうか、やはり
「調子に乗るな、この雑魚が」
なんと無礼な
「なんだと、
おうおう、言っておやりハイターク。実力行使もよいぞ。
「やめよハイターク。お前如きが口を挟むでない。――やや、そういえば。そちは確かタマル冠を、憎からず想うておったよなあ、愛する妹だとか余計な一言抜かして」
ななっ、今なんと仰いましたか。にいさま、
「滅相もない。私如き無骨者、貴人方には相応しくも何ともございません」
「当たり前だろう。貴人は貴人同士番うべきなのだから」
にいさま、左様でございます。
「実に憐れでひとりぼっちな我が妹よ。
無論です。にいさま、
「これで不満は無いな。代わりに兵を引き上げよ、
「ハイタークが落とした砦はどうなる」
「即刻返そう。……にしてもつまらんなー、せっかくひと月も猶予をくれてやったのに。古ビイナは穢らわしいから分からんでもないが、タマル冠とさえ何もないのか」
「あいにくだったな。そういう相手は
「たはははっ、何だそれは。とんでもない冷血漢だな、益々仲良くなれそうだ」
あらまあ、
帰りの道中、
「なあ、ひいな。
「んなわけ無いでしょ。
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