ヒイナ
武人ハイタークめ、手酷い失態を。かねてからの進言通り、邦境で手薄な砦を占拠したは良いものの、そちらは単なる囮だった。――その隙に、あやぎり朝の本隊が神鳴り山とその麓一帯へ攻め入ったのだから。
しかも間の悪いことに、付近を巡礼中だったヒイナが単身捕まった。戻った従者達は口々に言い訳ばかり並べ立てるが、あれはどう考えても、ヒイナを見捨てて逃げ帰ったに違いない。まったく呆れた者たちだ。
だから、この
「きゃーっ
「いいに決まってるだろ。ここはサルヌリ朝じゃない。人目なんか気にするな」
「わーいわーい、みんなよそ者だもんね。愚痴も罵倒も聞かなくて良いんだ~。げ、タマル冠……」
「皆心配してましてよ、ヒイナ。でも元気そうで安心しました」
「はじめまして
「それがどうした。
「よくも抜け抜けと。あんな張りぼての代わりにしては、いささか贅沢すぎる占領地ではございませぬか。ですが今日は顔合わせ、これで失礼しますね。せめてヒイナを返していただけるまで、何度でも伺いますから」
「帰る必要はない。目的は交渉を長引かせる事そのものだろう。御身を煩わせるのも忍びない。泊まっていくがよろしい」
ここは敵陣、どう見ても多勢に無勢だから仕方がない。とはいえ、護衛達は未練なく武器を捨て、次々に投降するとは嘆かわしい。
「この狼藉者がっ、ヒイナが居れば人質など事足りているでしょうに」
「タマル冠は演技が不得手と見受けられる。宿泊中はヒイナに師事したらどうだ」
まさかそんな、人質が、ヒイナだけでは不十分だと知っている。これはもしや、ヒイナ自身が告げたな。そこまで手懐けられるとは情けない。
「だってタマル冠。ヒイナね、初潮が来たの。だからもう交代だよね。しかも敵陣でなんて……本当に偶然でも何もなくっても、サルヌリ朝では誰も信じてくれない。ふつうの子に戻っても、お嫁さんにはなれないね。お妾さんでもましな方」
やはり、にいさまは正しかった。ヒイナ選びが終われば迎えに来て下さるだろう。
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