惹この章

報せの鳥

 留守役るすやくからお仕事の合間合間に呼び出され、俺が延々と聞き続けた、およそ数日にわたる思い出話は、やっとこさ幕を閉じた。


 そこへパタパタと、外から一羽の鳥が飛んで来て、開いている窓から侵入して留守役るすやくの差し出した腕に着地した。よく見ると、脚に布切れが括り付けられている。


長上おさがみから報せだ。やはり連絡手段には文字が良い。あて字でも教えた甲斐があったな」


「いったい何が書いてあるんですか」


「サルヌリ朝と無事和睦を結んだので帰って来るそうだ。ただし霧彦きりひこ、お前にはすこし面白くはなかろうな」


「はあ……」


何だそりゃ、まあ無事なら別にいいや。



そういう事かよ……当日出迎えの場に現れたのは、長上おさがみだけではなかった。


うちはタマル冠と申します。サルヌリ朝から嫁いで参りました。あやぎり朝の皆方、ようやくお目にかかれて光栄です」


 長上おさがみって侵攻防ぎに行ったんじゃなかったっけ。やっと帰って来たと思ったら、敵方出身のひめ同伴――本当は何しに行ったんだよ、女漁りか。心配して損した。無性にいらいらする。


「なんだ霧彦きりひこ、拗ねているのか。愛い奴め」


「別になんとも思ってません。ご新婚おめでとうござ、うわあ急になにを。降ろして下さい、またそうやって人を小バカにして笑って……何が楽しいんですかっ」


「そりゃ楽しかろう。久しぶりに会えたんだから」


うわ~、うわ~、でも俺は、そんな笑顔じゃ騙されないから。何だかうっかり笑っちゃうのも、抱っこされてて擽ったくて、それにつられただけだから。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る