無名
「最ッ悪、俺に着いてくんな。あっち行け」
「あては行きたい所へ行く。ハッハッハ」
「うちには病人だって居る。匿う訳ないだろ、そんなにおじさまにシバかれたいのか」
「せやなぁ、どうせなら荼ァしばきに行こか」
女は
「……チャってなんだ」
「ねえね~、だっこ」
入るやいなや、見目愛らしい童女が満面の笑みを浮かべて女に突進した。すごい懐きようだが、女はここの子守かなにかだろうか。
「あたくちね、ずっとねえねを待ってたの」
「あ~、どえらい可愛らし。こりゃ末は大層なべっぴんさんや。絶対嫁にはやらん」
女は童女を抱っこしたまま、東屋へと突き進む。
辿り着いた先で供された荼というのは、多少風味のある白湯に過ぎなかった。手で湯気を扇いで確認してみたところ、どうやら薬草を煎じた物に似ているが、そもそも飲んで大丈夫な代物か。
向かいを見れば、女は同じ宝瓶から注いだ荼を、ふうふうと息で冷ましてから童女に飲ませている。
「……飲み終わったらすぐ帰る。そして絶対に、もうどこで何があっても関わらない。それが約束、必ず守れよ」
「かまへん、かまへん。それでええよ」
「にしても
「そっちこそ。
「それ、あての名前とちゃう。本当はずうっと内緒やねんけどな、あては
「ふうん、いいな。誰が考えてくれた名前」
「お父やんと、お母やん。まあもう居てへんけどな~」
「そう。変わった親だな、そんな事して情が移ったら、間引きし辛くなるじゃんか」
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