匪躬
お見舞いというのは、通常相手から訪ねて来るものだと思う。でも病状を知らなければ来る者も来ないから、それとなく知らせて促すのは分かる。じゃあ呼び付けるのは何だろうか。よほどの寂しがり屋か嫌われ者か、これはあり得ないけど遺言か。
「貸せ貸せ、お前それでも調理人の身内か。流石に甘やかしが過ぎるだろう」
そんなこと言われたって。俺は梨に限らず料理中の皮むき自体したことが無い。
「姉も義兄も悪くありません。私が自分でも憶えてないくらい小さい頃、勝手に刃物を持ち出してざっくり手を切ったからと、用心して触らせてくれなかったのです」
「しつけに口出しは野暮だが。そんなの折を見て監視しながら教えてやればよいだけではないか。あ、教える前に分捕ったからか。そりゃあ悪かった」
「はいはい、さすが
どうせ悪いなんて思ってないくせに。俺がつむじを曲げていると、切ったばかりで瑞々しい梨の欠片を口に放り込まれた。それをしゃりしゃり噛んで飲み込んでいると、いつも怖い顔の
「
え、やばいじゃん。のんきに梨食ってる場合じゃねえ。俺はびっくりして
「あっはっは、まんまと罠にかかったな、
「狼煙を見たようで。既に来ております」
「相変わらず支度の早い。こちらも用意をしよう。
俺は絶対に声を出すなと
「アアッ、
「気にするな、それはお互い様という奴だ。――急いで駆け付けてくれたのだろう、髪が乱れているぞ。ここに座れ」
「さあさあ
「ウウウ~ッ、某には出来ませぬ……今でも鮮明に思い出す」
「案ずるな案ずるな、全部俺のための仕事だ。命じるのは俺、おまえは唯唯従うだけ」
「仕事……仕事……仕事……あれは仕事だったのか、でもあんないたいけな命乞いを、見て見ぬふりした。某の意思ではない、本当にそうなのだ。
「もちろん。
大男は泣きじゃくりながらヨロヨロと退出して行った。これは果たして調髪なのか……、俺は藪をつついてとんでもないものを見せられてしまった気がする。
「お見事です。
「元より大したことはしていない。分かっているとは思うが、捕虜を送って来ても殺すなよ」
本当に行ってしまうのか。俺は見送りの列の端に加わり観ていることしかできない。
「うはははっ。ハイターク、とかいったか。サルヌリ朝の英雄気取りなど。ぶっ殺して血祭りだ。なあ、楽しみだなあ
「そうだな
「安心して行ってらっしゃいませ、
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