だれも見てはならぬ
――すると遠くから、おいで……おいで……と、声がして……恐る恐る振り向くと。そこには、死んだはずの老婆がニヤニヤニヤニヤと、薄気味の悪い笑顔で瞬きもせず、こちらをじいっ……と見ていたのです。
――ある男がおりまして、ちょいと川へ釣りに行ったっきり、いつまで経っても帰って来ないのです。家族は総出で探したそうですが、とうとう何も見つからず。まるで煙のように消えてしまった。
すわ駆け落ちかと大騒ぎになったが、他に行方知れずになった相手も見当たらない。
しかし残された家族の待つ家では、夜中戸を叩く音がするそうで……急いで開けてみても、外には誰もいない。ただ地面にはいつも、まったく雨のない日でも水溜りができているそうで……。
――近所で飼われているめったに吠えない老犬が……急に虚空に向かって、牙を剥き出しにして吠えるのです。不思議に思っていたら、次の瞬間、明らかに天井の方から老若男女入り乱れた大勢の笑い声が響いてきまして……吹けば飛ぶような一枚屋根なのに。
「無理無理無理無理っ。もう帰る~、頼むからこれで解散しよう、解散」
あれから数日後の夕べ、
「嗚呼をかし、じゃのうて。ここ迄来ておいて何を謂うか。発案者は
俺は突き飛ばされ、渋々歩き出した。道中では髪を振り乱した
「ギャーッ、こっち来んなーっ」
(おいで……おいで……)
冷や汗をかきながら振り向くと、白髪で顔の隠れた小柄な人影が手招きしていた。
「うわあああああああ、出たーっ」
無我夢中で突っ走っていると、急につまづいて転んだ。あゝこれで追い付かれるな、終わった……。
「少々縄を張って引っ掛けただけだが。足を挫いたのか」
「
よくも転ばせたな。起き上がるのに手くらい貸して欲しい。というか貸すべきだ。月明かりの下で恨みがましく見上げると、
「お待ちを。甘やかしてはなりません」
「ひょえええ、顔怖っ。誰この人」
「ふっ、言われているぞ
あっ、そういう事か。
「嘘つき、今絶対誰か居ました。白装束があちらの方角に」
「なに、まさかそんな筈は……」
「アメヒメ……」
あれ、なんだか
「
「ええええっ、
俺が慌てて大声を出すと、更に遠くの方で使用人が反応し、急いで駆けて行くのが見えた。
「アラアラ、まあまあ。コレはコレは」
すると近くの茂みで女の声がした。間もなく頭から大きな布を被った人影が、足音をたてながらゆったりとこちらへ接近し、ばっと布を翻して
「
ほら
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