霧彦の章
むごさと甘さ
実にお誂え向きな事で、その日のうちに
「
「よくわかりません。何度か短い距離を走ったり、鞠つきを横で見てました」
「結構じゃないか、足腰を鍛えるのはよい事だ。なあ、しつり」
「知らぬわそんな事。領主は勇退したが、鍛錬の指南役に就いた覚えはない。会いたいというのは嘘だったのだろ。怒っているのだぞ吾人は」
しつり様がそっぽを向くと、
「ふうん、会う口実を作っては駄目か。隠居後わざわざこちらまで越して来たのは、
「なっ……、その手は食わぬ。吾人は騙されないぞ」
「信じてもらえないのは悲しいなあ。
勘弁してくれ、俺まだ食べ終わって無いんだよ。
渋々食器を置いて膝に乗ると、あれよあれよという間に衣服がくつろげられていく。
「んんんっ、ちょっと
「放っておけ、こちらに集中しろ。どの辺りが好みだ。やって見せろ、閨の参考にする」
こんな状況で実演してたまるか。流石は初対面の相手と屋外でも構わずおっ始めただけのことはある。
「うわわわっ、えんがちょー」
そんな
「ぐずっ、……不公平だ。
「それは良かった。晴れて両想いだなしつり」
うわあ……そのまま笑顔で抱擁するなんて。
「うぬぬ、たちの悪い色男め。この悔しさは何じゃ、惚れた弱みか、我ながらみっともない」
「どこが。しつりは本当に、会った時から素晴らしい。それに比べて
「は、むかつく……そんな下っ端根性、吾人が叩き直してくれるわっ」
「では、明日からもよろしくな。
まんまと
「ありがとう
「それはようございました。
間一髪、俺が急いで身なりを整え終わったところ、現れたのは
「おや、
「何か文句でもおありか。知っての通りわたくしは炊事担当、たまには直々に、食の好みを確認しようと思い立ったまで。夫の身を案じる
「
「あーやだやだ、これだから鈍い御仁は」
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