上克下
――領主、思ったより優しかったな。
意外と
生母は産褥死、産まれた子にも難があった。
それをあろうことか、使えない女と口走った先の領主は――川下りの不幸な事故に遭うのも当然か。
「
「きさま……今なんと言った」
「なにって、お分かりでしょう。でも
あっ、しまった。これは逆鱗だったか。拳が顔面に飛んできてようやく気がついた。不意を突かれて地面に倒れたところを更に足蹴される。
「とうとう取り柄の
「仰せのままに。剃刀ならここにあります」
懐から差し出して手渡したのは、我ながら気が利くようになったと思う。痛みで呼吸もしづらいが、首を掴まれて上を向いた。
「おい
領主の声に反応し、向き直るため、
「罰を与えているのです。領主のお庭を汚して申し訳ありません」
「そんなに血が見たいのか、ならば
――うわ、それはちょっと。
「おやめください領主、誤解です」
「馬鹿を申すな、その流血はなんだ。どこに誤解がある」
「私は浅手ですし、替えもききます。でも
「おい、その例え話はまさか――あの色呆けジジイ、またよそに子供こさえたのか。これで七人目だぞ、いい加減にしろっ。やはり乳母の今後をあんな奴には任せておけぬ。お望み通り離縁を薦めてやるわ」
「それは
「あやつにそこまで庇う価値があるとは思えんが。まあ案ずるな、
「許すも何も、当然だろう。吾人の為にさっさと行って来い」
「ありがたき幸せ、しかと承ります。おい、帰るぞ
「はい
「えーっ、そんなあ。試したい事が山程あるのに。怪我人なんだしこのまま置いてってよ~」
いや、そもそも怪我人に手を出すなよ。俺はとうに湯浴みを終え、着替えながらそう思った。
「そう云うことか、出会ってすぐに迫ったから……あやつ吾人を好き者と勘違いしておるのでは……」
確かにそれは、しつり様の言う通りかも知れない。ただ世の中には、仮に思っても口に出さない方が良いこともある。今がそれだ。
「ななな、何ということだ。しまった、今からでも訂正は間に合うだろうか。どう思う
「私に分かるわけがないでしょう。
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