R-15 狂喜乱舞

 阿諛あゆは半分現実逃避も兼ねながら、牢屋で度々目にした光景を反芻していた。


 囚人達を調髪している際に、その横で新たに投獄された者が嫌々ながら、あるいは自ら進んで――先住とくみつほぐれつ。

別にそれでなくとも、牢内では数少ない娯楽、便宜供与の対価、単に親密にならんがため頻発する情交。


ああ、そういえば。処刑場に引っ立てられる直前まで、名残惜しさからくっついて離れない人達まで居たっけ。


「ほらほら、ぼんやりしてないで。あちらの亭子に行くぞ」


阿諛あゆは差し出された領主の手を取ってついて行く。


「そこに座れ」


指示に従った途端に領主が膝上に跨り、再度口を塞がれ両手も握る。


「ふふ、ちゃんと全部の爪切ってる」


「……ただの職業柄です。これ以上は傅役ふえきに叱られます」


「往生際の悪~い。さっきは吾人に決めろと言うた口で、傅役ふえきを盾にして逃げるのか、ふん。そんなに嫌なら何もせぬ。髪だけ弄りに来ればいい」


「別に嫌というのではなく、その……痛いのはやだっ。どう考えても互いに準備不足は否めない。日を改めさせてください」


なりふり構わず半泣きで訴える阿諛あゆを見て、領主は拍子抜けした。


「なーんだ。そんな事を気に病んでたの」


別に苦しゅうない。領主はいとも簡単に下衣を脱ぎ捨ててしまったので、もはやこれまでと阿諛あゆも追従した。

再び対面で膝に跨がられ、いざ目にすると躰の造りの違いも問題ではなかった。


「ん~~、触ってもよいか」


「そんなのなにが愉しいんだか、っあ」


遠慮ない他者の手つきによって、少しづつその気にはなってきたものの、しかし何故かお預けを喰らう。


「だ~め、お愉しみはこれから。ちゃんと自分で支えて、そうそうそんな感じ」


 領主が身を寄せ、ほとんど距離は無くなった。正直これになんの意味がと歯噛みしつつ耐えていると、領主は先端に向かって伸ばし始めた。


「気持ちいいですか、そういうの」


「うん、すき、だから来て」


くいっと片手で掴まれ、内側のぬかるみが先端に触れた。


「あっ……ほんとだ。何か変な感じ」


阿諛あゆは思わず手を伸ばし、二人分含んで薄くなった表面を撫でた。


「ひゃうっ、……」


「領主……これって結局最後はどうなりますか」


急にまともな単語を喋り出した阿諛あゆの顔を覗き込むと、既に風情などあったものではない。妙な探究心に目覚めていた。


「ふええ、どうしてそうなるの……一緒に戯れようよお……」


「やはり領主から先に。私は後でどうとでもします。細心の注意は払いますが、痛かったら言ってください」


「そんな情緒のかけらもない……もうっ、あとで後悔しても知らないんだからあ……あっ、」


容量いっぱいならあふれるという当たり前の結果だったが、相手の反応だけでも十分楽しかった。




 既に手遅れかも知れないが、傅役ふえきが怪しんで様子を見に来る前に、最低限の身繕いをして亭子を後にした。


「あーあーあー、疲れたな~、誰かさんのせいで。傅役ふえきに怒られるーって泣きべそかいてたのにおかしいなあ」


「領主。申し開きもございません」


「そのよそよそしさは何なの、もう知らぬ仲でもあるまいし。領主じゃなく、しつりって呼んで」


「……」


「呼・ん・で」


「……………………しつり」


「わあ、うつくしきこそ嬉しけれ」


「俺如きの分際で、呼び捨てするなんてあり得ない……。後生ですから二人きりの秘密にしてください。誰にも内緒、特に傅役ふえき


「案ずるな案ずるな~。絶っっ対に言わぬ。だから今後も呼ぶのが慣わしぞ。また二人きりになるのが待ち遠しい」






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