七つの子

烏 なぜ啼くの

烏は山に 可愛七つの子があるからよ

可愛 可愛と烏は啼くの

可愛 可愛と啼くんだよ

山の古巣に 行つて見て御覧

丸い眼をした いい子だよ。




 労いも褒め言葉も一切無かったが、なんとか殺されずに済んだだけで上々だ。――傅役ふえきの次なる目標は気掛かりだが。それでも町中を歩く阿諛あゆの足取りは軽かった。


「おいそこの。こっちゃ来い、代吏だいりがアンタをお呼びだよ」


 見知らぬ下働きと思しき女に着いて行くと、ひっそりと佇む簡素な造りの一軒屋にたどり着いた。


「おお~よしよし、さすがは儂の子じゃ。ほうれ、高い高ーい」


「キャッキャ、じいじー、もっとー」


「んもう、代吏だいりったらあ。あんまり無理をしたら危のうございますう」


――やっべ、忙しくて完全に忘れてた。もはや産まれるどころか歩いて喋ってやがる


「おお来たか、待ちくたびれたぞ」


代吏だいりは子供を抱きかかえ、喜色満面の笑みで阿諛あゆを見下ろした。そのまま子を妾に受け渡し、縁側に腰を落ち着けると、下働きに白湯を二つ用意させ、阿諛あゆには横へ座るよう命じた。


「何じゃ、そんな化け物でも見たような顔をして。飲め飲め、冷えたら白湯の意味が無い」


「頂戴します。つい、歳月の重みを噛み締めておりまして」


「おう。傅役ふえきもなかなかしぶといのう~……、手を噛む犬は放し飼いがコツか。じゃが、おぬしも知りたくはないか。――あの男の弱点を」


「それが代吏だいりの奥方ではありませんか。元乳母のよしみで傅役ふえきに殊の外尊重されているから、別れたくても別れられないと仰せでしたね。誰でも進んで上位者の不興は買いたくないものです」


「逆じゃ、逆。乳母に甘える子は単なる結果。もう少しじゃ、頭を回せ」


「うーん、そもそも乳母は、ある程度の家なら珍しくもなんとも無い。生母に代わって、子の面倒を見る役目です。まさか傅役ふえきは、生母と折り合いが悪いのですか」


「悪い、だなんて生易しいものではないのう。何せ物心ついたばかりの息子も、領主の分家筋に当たる夫も、全て投げ捨てた憎き女。先の領主に見初められてな」


「それはそもそもが仕方ないのでは。領主の意向を一介の女が拒める訳もないし、お互い未練を残すまいと多少冷たく当たるのは、むしろ優しさではないですか」


「はー、ご立派ご立派。そうやすやすと割り切れれば、世の中誰も苦労はせぬわ」


 阿諛あゆ代吏だいりの仮寓を後にして、傅役ふえきの館へと戻った。


「遅いっ、どこをほっつき歩いておったのだこの梼昧とうまい。早う支度をせぬか、初仕事だ」





七つの子

初出誌 ∶「金の星」 大正10年7月

作詞∶野口雨情

北茨城市歴史民俗資料館・野口雨情記念館公式HP

https://www.ujokinenkan.jp/ujo_noguchi/song20.html

(2024/07/30 23:53アクセス)

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