肥遺
平然と自首するばかりか、滔々と自白も述べた我が子に、
「何故だ。なにゆえその様な事をしでかしおったのだ」
父の問いに応え、すっとこちらを見据える眼差しの静けさは、とてもそんな真似をするようには見えなかった。
「父上もご存知でしょう。今年は特に雨がない。これでは徴租が滞らないだろうかと心配で心配で。可能な限り足を運んで、私なりに民戸の備蓄や種籾を見て回ったところ、まあ大変だが徴祖分は何とかなると皆申しておりました」
「ははは……、いよいよ分からぬ。ならば何も問題ないではないかっ」
「まだ話しは終わっておりません」
その道中、かなり日差しが強く、加えて暑かったのです。私は喉が渇き過ぎて、度々えづいた。ですが招かれざる客が、行く先々で貴重な飲み水まで頂く訳には参りません。無論、竹水筒は持参しましたが、それもすぐ空っぽになり、私は上流の沢の水を汲んで飲もうと山に登りました。そこで
――はあ、喉乾いた。はやくはやく、水が飲みたい。あれっ、急に雨が降ってきた。よっしゃあ、これでもう大丈夫だ。沢が濁る前に水汲んで、さっさと帰ろっと。嬉しさのあまり先を急ぐと、突如として木々もまばらな、視界の開けた場所に差し掛かった。
おや、こんな原っぱあったっけか。
よく見ると、そこから先は快晴だった。不思議に思いながらも足を踏み入れる。雨と晴れ、丁度その境目に差し掛かった瞬間、翼の生えた光り輝く
――あれは
「実際、こんにちに至るまで日照り続きなので、これはいよいよ旱魃が起きると確信しました」
目を輝かせながら、なおも話し続ける子供を前にして、
「まだ払えるからといって、種籾以外は徴祖に出せば、備蓄が尽きてしまいます。飢饉を見越して減徴すべきです。しかし父上のお立場でそれは難しい。私は考えました。それなら不可抗力の状態を作れば良いのだと。
一同が唖然とする中、
「たとえどんな理由があれど、火付けは皆の命を危険にさらす。此度は運良く誰も死なず、火傷も怪我も負わせずに済んだだけのこと。だが殺すにはまだ惜しい、豚児犬子には情けをかけてやる。ただしその父は監督不行き届きも甚だしい。命をもって償え」
これには
「え。そんな、殺すなら私を殺してくださいっ。父は何も」
「なぜこの私がっ、むざむざ死なねばならんのですか。全てはあいつの犯した罪、私は無実だ。どうかお救い下さい。あんなの我が子じゃない、人のふりした禍い者だ。私は騙された、なんとも哀れな人間なのに」
――離せこのっ、いやだいやだうわーっいやあーっ殺さないでくれ、どうかお情けを、………怖い怖い痛い、死ぬのは嫌だ、誰か助けてくれ。何でもする、何でもやるから見逃して、ひいいっぎぃぐあっ…………
容赦なく繰り広げられた血みどろの惨劇に、
「やれやれ、ようやく死んだか。まあほんの少し位は哀れな奴よの。せめてもの手向けじゃ、次の
悲嘆に暮れる者達を尻目に、
「儂は帰る。おぬしは同行せよ。それ以外は散れ、追って沙汰は下す」
「ううっ、そんなのいやです。ごめんなさい父上ごめんなさい、俺がまちがってました……赦して貰えなくてもいい、必ずあとを追います」
「親が親なら子も子だな、よく見て憶えておけ。後先考えない小童の自己満足を。お前の所業は謀反そのもの。一度死んだらそこで終いじゃ」
そう言いながら、
「この人でなし、父上が死んだのはお前のせいじゃ。お前に泣く資格などないっ」
それもそうだな、と思いながらあふれる涙を拭い、最低限の着替えを携えると、出立する
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