映日

 俺はしつり様が取り損ねた手鞠を追いかけ、次々通りかかる使用人達に踏み潰される一歩手前で無事拾い上げた。土埃を払うと、何だかいやな臭いがする。皮製だから仕方ないといえばそうなのだろう。

俺が戻ると、しつり様は半ばひったくるように手鞠を受け取った。


「吾人とした事が。失念して、二人分の手鞠は用意せなんだわ」


別に一つで問題ないのではと思ったが、ともあれすっかり汗だくになってしまったので、俺は許可を取って一足先に湯殿に向かった。湯船に浸かっていると程なくして、着衣のしつり様も現れた。


「嘆かわしい。湯帳も纏わず湯に浸かるとはお里が知れる」


「そんなひめではあるまいし。長上おさがみだって同じでしたよ」


そんな感じにうそぶきつつ、俺はしつり様を観察した。見れば見るほど不思議な体型だ。厳つくは無いがふくよかでもない。声は高いけど。


「何じゃ不躾に見ようてからに。吾人の股ぐらがそんなに気になるか。――左は生まれつき捻じれ腐って無うなった。もう片っぽもじきに同様じゃ、そういう体質なのだろうと産婆が申しておったとか」


「さようで」


「はあ~……全く、また長上おさがみに一杯食わされた。会いたいというから来てみれば、何じゃこのこの。あやつ、巫山戯るのも大概にせえよ」


俺は突然の暴露にしんみりする暇もなく、しつり様の気が済むまで、湯おけに汲んだ湯を頭から浴びせられるのを繰り返した。


「うえぇ、げっほげっほ」


もう大概にしろ。完全にとばっちりでしかない。



 しつり様は散々俺に八つ当たりしてすっきりしたようで、今度は思い出話を一方的にまくし立てた。こういう所は誰かさんに似ている。


「あやつはなー……末恐ろしいことに、又代まただいの息子のくせして里倉に火を放ちおったのよ」



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