しつりの手鞠唄

 うげ、この人か。昨日長上おさがみが寄越すと言っていた人は。初対面の挨拶もそこそこに場所を変え、連れて行かれた先は、使用人が近道代わりによく行き交う、広い庭の一角だった。


「手前の楡の木と、奥の李木が見えるか」


「はい、しつり殿」


「様と呼べ。吾人は長上おさがみのしもべではない。付き合いは長いがな……話が逸れた。吾人が止めるまで、木々の間を駆けて往復せよ。そら、始め」


言われるまま走り続けたが、すぐバテた。俺はその場にへたり込んでゼイゼイ息をした。


「まあよいわ、次は鞠つきじゃ。おいそこの、霧彦きりひこの部屋から吾人の赤包を取って参れ。ついでに竹水筒も二つ」


通りがかった二人組の使用人は、慌ててそれぞれ走って行った。意外とすぐに持ってきてくれた水を呑み、俺はひと息ついた。しつり様は荷物の中から皮製の手鞠を取り出し、屈んで鞠つきを始めた。


〽てんつく てんつく 跳ね手鞠 ねじり離れて あらいずこ

分かれてお出でになりまする 浮いてなくなり かそいろは

川とり 畑とり 軒とられ 手練の 手管に 手も出ない

それでは頂戴 頂戴な 手鞠は 手込の 飾り物

てんつく てんつく 跳ね手鞠


唄は意味不明だが、鞠つきは上手い。ということは、しつり様は女なのだろうか。

ぼうっとしながら見ていたら、手鞠が取りこぼされ、そのまま弾んで飛んでいった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る