よろづの肖え物

 ――ええやんええやん。一つ位、頼まれてくれたって。


「……図に乗るな」


 えっ何で。長上おさがみが急に目頭を抑えたと思ったら、声の調子もあからさまに急降下した。でもここで引き下がったら、俺はこの初日以降、いつお目通りが叶うか分からないんだし、この際仕方ない。


「私も働かせて下さい。長上おさがみのお役に立ちたいのです」


「人手は足りている。ふっ、そこまで言うならしょうがない。一人戯びでもして、房事を鍛えろ」


うっわ、顔を上げたと思ったら悪辣な笑みで最悪なご命令だ。ちくしょう余計なこと言わなきゃよかった。


「ではな霧彦きりひこ、明日から肖え物を寄越して遣わす。成果に期待しているぞ」


夕餉を先に食べ終わった長上おさがみは、呵々大笑で去っていった。



 その次の日。朝っぱらから、どこかで声がする。あゝこりゃまだ夢の中だ。そうに違いない。


「あともうちょっとだけ……ううん」


「起きなされ霧彦きりひこ、いつまで寝こけておるかっ」


寝具ごと蹴り飛ばされてもんどり打った。なんつー乱暴な。寝ぼけ眼に映ったのは、 

男か女かもよく分からない謎の人物だった。


「しつりと申す。以後お見知りおきを」




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