海媛
あれこれ考えても無駄だから、もう一度眠りに落ちようとしたのに、新たに人の気配がして、部屋の外が急に騒がしくなった。
「なんっとまあ、良いご身分ですこと。わたくしの朝餉を無碍にしたばかりか、新顔が挨拶もなく不貞寝とは。親代わりの顔が見てみたい、まあここに居るのだけれど」
「嗚呼~、
「随分とお情けが深いのですね。あの方は初夜の生娘相手でもここまで優しくしませんでしたよ」
「それは、なんと言いますかその……」
「隙あり」
仕切戸が開いたのでとっさに寝たふりをした。しかし寝具を剥ぎ取られ、強く顎を引かれても狸寝入りを決め込めるほど、俺の肝は太くない。
「ふうん、へええ、やっぱりこういうのが好みなの。ちょっとだけ似ているかもね、全く業の深いこと」
遠慮なく入ってきた美人は、その鮮やかさに目が覚めるほどだったが、意外に手は荒れていた。おそらく水仕事で。
「あねうえ......」
「いやそこは義兄上だろ~、ひ、じゃなかった霧彦。やっぱりあんま元気そうじゃないな、しせらも心配してたぞ」
見慣れた顔が目に入った途端、涙が止まらなくなった。しまった。何とか蓋をして、考えないようにしてたのに。
「あんれまあ、優しいなんてとんだ思い違いだった。まだほんのわらべじゃないの」
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