R-15  いずれ菖蒲か燕子花

 人払いが解除され、俺は湯殿に行った。


「チッ、何でまだ粘り気残ってんだよ……」


時間経ったら段々と水っぽくなるもんじゃないのか、これじゃ出しずらくてしょうがない。


霧彦きりひこ。許可なく勝手に棄てるな。陽の気を静めるのだろ」


もう起きたのかよ、勘弁してくれ。あのあと仮眠するとか言っていたじゃないか。俺は無性に腹が立って長上おさがみに言い返した。


「よくもいけしゃあしゃあと、インチキ祈祷師のデマカセなぞ信じてないでしょうに」


「おうおう、言うようになったなあ。褥を共にしただけで正直になるのは実によい。次はそなたから求めるまで励もうか」


長上おさがみに付いて来た湯係がクスクス笑いながら背中を流し始めた。そもそもが妙な話だ。何故有望そうな男子を係累から見繕って養子にしない。そこへ取次が現れた。


「失礼つかまつります。ご母堂様とご兄弟様方がお目通りを求めて参られました」


「何がご母堂だ。全員石でも投げつけて追い返せ」


そんなに身内が嫌いなのか。でもそれはそれで見たいかも。


「粒揃いの腰抜けどもよ。あやつらが兵を挙げたというに、誰も加勢せなんだわ。それが吉報聞きつけた途端、急に馳せ参じて古参面、そんな輩に誰が従うものか」



遅めの朝餉は断って、与えられた居室で休ませてもらった。寝具に包まりうとうととしながら考える。


俺は今後どうなるのだろう。長上おさがみはさっさと子供が欲しい訳だから、ひめの誰かと番わすのか。それとも先に身も心も屈伏させるのか。何となく後者かな。



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